「3者対話」で面子守る
「韓米中の3者対話」とは?
鈴置:朴槿恵政権がスタート当初から唱えていた会談です。韓国主導で米中韓が北朝鮮問題を議論する――との構想でした。
もっとも、この構想は不発に終わっていました。中国からは「北朝鮮を孤立させたくない」と断られ、米国からは「日本を外すのはまずい」と指摘されたようです。米中の本音は「朴槿恵のスタンドプレーに付き合っている暇はない」ということでしょうが。
韓国が3者対話をまた言い出したのは「見栄」のためと思われます。米中に強要されて、北朝鮮を喜ばすだけの「平和協定をも議論する6カ国協議」に参加せざるを得なくなった。
それならせめて自分が主張していた3者対話を実現してもらおう、ということかと思われます。3月22日には韓国外交部が「米国と3者対話の推進で合意した」と発表しています。米国とすれば韓国に対する宣撫工作――「朝三暮四」のつもりでしょう。
朴槿恵政権は国民に対し「米中双方から信頼される国になった。両大国の力を借りて日本と北朝鮮を叩いている」と誇ってきました。その宣伝は政権への支持率を上げる特効薬でもありました。
ところが実態は大きく異なることが国民にも知られ始めた。そこで朴槿恵政権は周辺国から軽んじられるたびに「米中を操る、世界のグローバルリーダー」という自画像を演出してみせるのです。
軍事力こそ外交カード
「平和協定に関する協議は北朝鮮と米中だけで実施すべきだ」と北が言い出す可能性が高い、とのことでしたね(「韓国を無視して『パンドラの箱』を開ける米国」参照)。
ええ、韓国が朝鮮戦争の休戦協定に署名していないため、北朝鮮は時々、そんな嫌がらせを言うのです。平和協定は休戦協定を格上げする性格のものですから、一応、理屈はあるのですが。
韓国が「3者対話」を立ち上げたがるのは、北のこの嫌がらせに対抗する狙いもあるのでしょう。
3者対話を開いたとして、どんな意味があるのですか。
鈴置:何もありません。韓国は譲歩したり脅したりする「外交カード」を持たないからです。その韓国が加わっても、中身のある話し合いは期待できません。3者対話に限らず、米中南北の「2プラス2」だろうと、6カ国協議だろうと本質的には同じことと思います。
韓国は自らの命運を左右する協議で発言力を持たないということですね。
鈴置:十分な軍事力と国民の戦う決意を持たないからです。自分の国を自分で守れない以上、国際社会で確かな発言力は持てません。それは日本も同じことです。
結局、たぶんこれから開かれるであろう朝鮮半島を巡る協議は、韓国にとって面子を保つことに汲々とする場となるでしょう。
「瓢箪から駒」の6カ国協議
日本も、6カ国協議が開催される可能性が高まっていることに注目すべきです。米朝関係が進展すれば在韓米軍の削減・撤収問題が射程に入ってきます。日本を取り巻く安保環境が大きく変わります。そして、拉致被害者を日本に取り戻す機会にせねばなりません。
でも、そんなに簡単に米朝間の対話が進むのでしょうか? 双方が軍事力を誇示して威嚇し合っているというのに。
鈴置:そこが国際関係の面白いところです。「瓢箪から駒」となるかもしれないのです。
1月6日 | 北朝鮮、4回目の核実験 |
1月15日 | 北、米韓演習中断と核実験中断・平和協定締結の取引を提案 |
2月7日 | 北朝鮮、長距離弾道ミサイル実験 |
2月17日 | 王毅外相「非核化と平和協定を同時に進める交渉を提案」 |
2月21日 | |
WSJ「4回目の核実験の前に米朝が平和協定に関し秘密交渉」 | |
米国務省報道官、WSJJ報道に関連「北が交渉を提案してきた」 | |
2月23日 | |
ケリー国務長官「北が非核化を話し合う場に来れば平和協定も」 | |
王毅外相「6カ国協議再開を通じ中国の当然の役割を果たす」 | |
2月26日 | 米副報道官「6カ国協議再開を望む」 |
3月2日 | 国連安保理、対北朝鮮制裁案を採択 |
3月3日 | 米報道官「並行協議に関し米国が排除したことはない」 |
3月7日 | 米韓合同軍事演習開始(4月30日まで) |
3月8日 | ソン・キム特別代表「韓国が知らない米中の秘密取引はない」 |
3月11日 | リッパート駐韓大使「イラン、キューバ、ミャンマーと関係改善」 |
3月14日 | 尹炳世外相「韓米中3カ国協議は遠くない未来に稼働と期待」 |
3月15日 | 金正恩第1書記「早いうちに(次回の)核とミサイル実験を断行」 |
3月20日 | オバマ大統領、キューバを訪問し21日にカストロ議長と会談 |
3月22日 | ソン・キム代表と金烘均・本部長、3カ国協議推進で一致 |

2015年9月3日、朴槿恵大統領は中国・天安門の壇上にいた。米国の反対を振り切り、抗日戦勝70周年記念式典に出席した。
10月16日、オバマ大統領は、南シナ海の軍事基地化を進める中国をともに非難するよう朴大統領に求め、南シナ海に駆逐艦を送った。が、韓国は対中批判を避け、洞ヶ峠を決め込んだ。韓国は中国の「尻馬」にしがみつき、生きることを決意したのだ。
そんな中で浮上した「核武装」論。北朝鮮の核保有に備えつつ、米国の傘に頼れなくなる現実が、彼らを追い立てる。
静かに軋み始めた朝鮮半島を眼前に、日本はどうすべきか。目まぐるしい世界の構造変化を見据え、針路を定める時を迎えた。
『中国に立ち向かう日本、つき従う韓国』『中国という蟻地獄に落ちた韓国』『「踏み絵」迫る米国 「逆切れ」する韓国』『日本と韓国は「米中代理戦争」を闘う』 『「三面楚歌」にようやく気づいた韓国』『「独り相撲」で転げ落ちた韓国』に続く待望のシリーズ第7弾。12月15日発行。
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