「イラン合意」が雛型

これを見ると、米韓が北朝鮮と激しく対決する構図です。

鈴置:でも「軍事的恫喝」や「経済制裁」では「出口」は見えません。米国を含め、軍事行動によって北の核を除去しようと考える国はありません。

 経済制裁のカギは中国が握ります。北朝鮮の貿易の90%は中国が相手だからです。ところが中国は、北朝鮮に核を放棄させるほどの厳しい制裁を実施するつもりはない。

 北が軍事的に暴発したり、あるいは経済が破綻して難民が中国に押し寄せたら大変だからです。下手に北朝鮮が消滅すれば、米軍が駐留する統一韓国と領土を接することになります。

 米国も、米中関係の悪化まで覚悟して中国に「厳しい対北制裁を実行しろ」と迫る気はありません。手詰まりに陥った米国は中国に歩み寄り「平和協定を北朝鮮と論議しろ」との主張を受け入れたのでしょう。

 表には出ていませんが細かな事実の断片をつなぎ合わせると、米中は「北朝鮮の核開発の進展を食い止めることに目標を置く。そのために中国もある程度厳しい制裁に同意する。一方、米国も北朝鮮の要求をある程度のむ」ことで合意したと思われます。

 根っこには「北に核を完全に放棄させるのは難しい。それならせめて核開発のテンポを遅らせよう」との発想があるのでしょう。2015年の「イラン核合意」と同じ考え方です。米中は国連の常任理事国としてこの合意を共に作った実績があります。

大手柄の3代目

韓国以外は、平和協定を米朝が協議するメリットがあるのですね。

鈴置:ことに北朝鮮がそうです。米国と平和協定を結ぶことができれば、金正恩第1書記は権力基盤固めに使うでしょう。自分が米韓の間にクサビを打ち込んだと誇れますからね。

 さらに、協定をテコに在韓米軍の削減・撤収を実現できれば、祖父や父親も果たせなかった外交的な大勝利を3代目が実現することになります。

 それに激しい「威嚇合戦」には、米朝が自らのカードの値段を釣り上げる狙いも込められていると思えます。

 北朝鮮が今、実施している宣伝は弾頭の小型化にしろ、再突入技術の確立にしろ、すべて「核ミサイルの実用化に成功したぞ」との内容です。

 「表・朝鮮半島を巡る米、中朝のカード」で示したように、それらは交渉カードとなるのです。要は「俺の核は高いぞ」と協議の場でふっかける準備でもあるのです。

朝鮮半島を巡る米、中朝のカード
米国 中国・北朝鮮
THAAD配備留保 従来より強い対北朝鮮制裁容認
米韓合同軍事演習の中断と一部制裁の解除 北朝鮮の核・ミサイル実験の中断
米朝平和協定の締結
 ・米朝国交正常化
 ・在韓米地上軍撤収
 ・在韓米軍撤収
 ・米韓同盟廃棄
北朝鮮の核兵器廃棄
 ・核弾頭の増産中断
 ・弾頭再突入技術の開発中断
 ・弾頭小型化技術の開発中断
 ・保有核兵器の全廃
「朝鮮半島の非核化・中立化」の制度的保障
注)左右の項目は必ずしも連動しない

 反対に、米韓が繰り広げる久しぶりの大規模な合同軍事演習もそうです。この期間中、北朝鮮は準戦時体制をとらざるを得ません。例えば、鉄道も通常の体制では運行はできません。当然、経済活動に大きな支障が出ます。

 米国は大規模の演習をすることで「我々が軍事演習を中断しない限り、あんたは大損し続けるよ」と言い渡しているも同然なのです。

貧乏くじ引いた韓国

今後、半島はどう動くのでしょうか。

鈴置:米韓合同軍事演習が終わる4月30日までは、米韓と北の間で威嚇合戦が続くでしょう。そして5月初めに北朝鮮労働党は36年振りの党大会を開きます。

 もし軍事的な衝突が起きなければ、党大会後に6カ国協議が開かれ、米朝間で平和協定に関して取引が始まる可能性があります。

では、1人だけ貧乏くじを引いた韓国はどうするつもりでしょうか。

鈴置:どうすることもできません。

次回に続く)

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「中国の尻馬」にしがみつく韓国

2015年9月3日、朴槿恵大統領は中国・天安門の壇上にいた。米国の反対を振り切り、抗日戦勝70周年記念式典に出席した。

10月16日、オバマ大統領は、南シナ海の軍事基地化を進める中国をともに非難するよう朴大統領に求め、南シナ海に駆逐艦を送った。が、韓国は対中批判を避け、洞ヶ峠を決め込んだ。韓国は中国の「尻馬」にしがみつき、生きることを決意したのだ。

そんな中で浮上した「核武装」論。北朝鮮の核保有に備えつつ、米国の傘に頼れなくなる現実が、彼らを追い立てる。

静かに軋み始めた朝鮮半島を眼前に、日本はどうすべきか。目まぐるしい世界の構造変化を見据え、針路を定める時を迎えた。

中国に立ち向かう日本、つき従う韓国』『中国という蟻地獄に落ちた韓国』『「踏み絵」迫る米国 「逆切れ」する韓国』『日本と韓国は「米中代理戦争」を闘う』 『「三面楚歌」にようやく気づいた韓国』『「独り相撲」で転げ落ちた韓国』に続く待望のシリーズ第7弾。12月15日発行。