米朝秘密交渉から米中合意へ

「米朝が平和協定を巡り秘密交渉」と米国紙が報じたことがありましたね。

鈴置:2月21日にウォールストリートジャーナル(WSJ)が「4回目の核実験の少し前に、米朝が戦争の正式な終結――つまり、平和協定――に関し秘密交渉していた」と特ダネを書きました(「朴槿恵外交は『暴走』から『迷走』へ」参照)。

 「U.S. Agreed to North Korea Peace Talks before latest Nuclear Test」(英語版)という記事でして「4回目の核実験のため、米朝の秘密交渉は途絶えた」とも報じました。

 この部分を読んでほっとした韓国人もいたでしょう。でも、それはすぐに裏切られました。今度は米中が、平和協定を6カ国協議――朝鮮半島を巡る多国間協議で話し合うことで合意したのです。

 流れを追うと分かりやすい。「表・平和協定を巡る動き」をご覧下さい。北朝鮮は4回目の核実験の9日後の1月15日に米韓演習中断・平和協定締結と、核実験中断を取引しようと米国に提案しました。

                                               
平和協定を巡る動き(2016年)
1月6日 北朝鮮、4回目の核実験
1月15日北、米韓演習中断と核実験中断・平和協定締結の取引を提案
2月7日北朝鮮、長距離弾道ミサイル実験
2月17日王毅外相「非核化と平和協定を同時に進める交渉を提案」
2月21日
WSJ「4回目の核実験の前に米朝が平和協定に関し秘密交渉」
米国務省報道官、WSJ報道に関連「北が交渉を提案してきた」
2月23日
ケリー国務長官「北が非核化を話し合う場に来れば平和協定も」
王毅外相「6カ国協議再開を通じ中国の当然の役割を果たす」
3月2日国連安保理、対北朝鮮制裁案を採択
3月7日
米韓合同軍事演習開始(4月30日まで)
洪磊・中国副報道局長「中国の玄関先での米韓演習に懸念」
3月8日ソン・キム特別代表「韓国が知らない米中の秘密取引はない」
3月11日リッパート駐韓大使「イラン、キューバ、ミャンマーと関係改善」
3月14日尹炳世外相「韓米中3カ国協議は遠くない未来に稼働と期待」
3月15日金正恩第1書記「早いうちに(次回の)核とミサイル実験を断行」
3月20日オバマ大統領、キューバを訪問し21日にカストロ議長と会談
3月22日ソン・キム代表と金烘均・本部長、3カ国協議推進で一致

 同日配信の朝鮮中央通信の記事「朝鮮外務省、敵対勢力らの反・共和国挑発行為を非難」(韓国語)の一節を以下に翻訳します。

  • 朝鮮半島と東北アジアの平和と安定のために、我々が示した「米国の合同軍事演習の中止」対「我々の核実験の中止提案」と「平和協定の締結提案」を含むすべての提案はいまだに有効である。

中国提案に乗った米国

このニュースは初耳でした。

鈴置:ええ、日本でも韓国でも、ほとんど報じられませんでした。「北朝鮮のいつもの宣伝攻勢」と見なされたからです。ましてや、米国がそれに乗るとは想像しにくかった。

 なおこの記事で、北朝鮮は「平和協定の締結」を自らが米国に与える案件に数えています。実態は逆なのですが「平和協定を結んでほしい」と米国に頭を下げれば、舐められると考えたのでしょう。

韓国が「日本が望むなら通貨スワップを結んでやってもいいぞ」と言ってくるのと、似ていますね。

鈴置:その通り、全く同じです。北も南も「見栄張り」なのです。話を平和協定に戻しますと、次に動いたのが中国です。王毅外相が2月17日に「非核化と平和協定を同時に進める交渉を提案する」と語りました。

 これも想定の範囲内の動きでした。米朝が平和協定を結べば、在韓米軍を追い出せるかもしれない。中国は北京の目と鼻の先の朝鮮半島に駐留する米軍が目障りでしょうがない。願ってもない話なのです。 

 だから多くの朝鮮半島観察者も、たぶん韓国政府も「中国がダメ元で言い始めたな」と見たわけです。

 でも、驚いたことにその6日後の2月23日、米国のケリー国務長官が「もし北朝鮮が非核化を話し合う場に来れば、朝鮮半島の未解決の問題を解決するための平和協定も最終的には可能だ」と述べたのです。中朝の「平和協定の締結を話し合おう」との提案を米国が受け入れたのです。

 米国務省の発表資料「Remarks With Chinese Foreign Minister Wang Yi」を見ると、ちゃんと「平和協定」(peace agreement)という単語を使っています。以下です。

  • it can actually ultimately have a peace agreement with the United States of America that resolves the unresolved issues of the Korean Peninsula, if it will come to the table and negotiate the denuclearization.