2つの廃棄の交換

では、米朝首脳会談は実施しても決裂する……。

鈴置:金正恩委員長が核を完全に放棄しない限りは。そうなれば戦争の可能性が一気に増します。北朝鮮もそれは分かっている。

 しかし、このままだと経済制裁と軍事的な圧迫で体制が崩壊しかねない。追い詰められたあげく「対話」に打って出たのでしょう。

「対話」に出ようが、決裂すれば逆効果です。

鈴置:可能性は低いけれど、金正恩委員長が生き延びる道があります。本当に核を放棄することです。もちろん朝鮮人民軍からは強い反対の声が出るでしょう。

 ただ、軍をなだめるために核放棄と同時に、米韓同盟を廃棄させれば何とか体制を維持できるかもしれません。

 鄭義溶・室長が金正恩委員長の発言として伝えた中に、以下の1項目があります(「『時間稼ぎ』の金正恩に『助け舟』出した文在寅」参照)。

  • 軍事的な脅威が解消され、体制の安全が保障された場合、核兵器を保有する理由がない。

 「軍事的な脅威が解消」とは在韓米軍の撤収、さらには米韓同盟の廃棄を指します。核と米韓同盟の廃棄を交換しようとの申し出です。鄭義溶・室長は当然、トランプ大統領に伝えたでしょう。

どうせ、米韓同盟は持たない

米韓同盟の廃棄を米国が飲むでしょうか。

鈴置:トランプ大統領なら飲むでしょう。そもそも「日本や韓国は自分で守れ」という公約を掲げて当選した人です。

 就任後は「韓国は歴史的に中国の一部だった」と語りました。韓国を米国の勢力圏外の国と公言したのです(「『韓国は中国の一部だった』と言うトランプ」参照)。

 この発言を韓国メディアは「トランプの暴言」と片付けました。でも、米国の安全保障の専門家の多くが、はっきりと言うかは別として「米韓同盟はもう長くは持たない」と考えている。

 韓国は米国を離れ中国に吸い寄せられていく。米国もそんな韓国を守る経済的、精神的な余力を失いました。

 2月16日に米商務省が提示した、鉄鋼の輸入制限案の1つが「53%の関税」という過激なものでした。対象となった12カ国は中国やロシアなど仮想敵国がほとんど。

 しかし、韓国は米国と同盟条約を結んでいるというのに12カ国の1つに入ったのです(「北より先に韓国に『鼻血作戦』を発動する米国」参照)。

 韓国では不満の声が上がりました。が、米国からは「韓国が『仮想敵リスト』に入った」ことへの違和感は聞こえてこなかった。

日本の安保環境は激変

結局、米朝首脳会談は……。

鈴置:不発に終わるか、実現しても米国が「最後通牒」を手渡す場になるか。あるいは、平和的に解決したとしても米韓同盟が消滅の危機に瀕するか――。いずれにせよ、日本を取り巻く安保の環境が激変します。

(次回に続く)

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孤立する韓国、「核武装」に走る

■「朝鮮半島の2つの核」に備えよ

北朝鮮の強引な核開発に危機感を募らせる韓国。
米国が求め続けた「THAAD配備」をようやく受け入れたが、中国の強硬な反対が続く中、実現に至るか予断を許さない。

もはや「二股外交」の失敗が明らかとなった韓国は米中の狭間で孤立感を深める。
「北の核」が現実化する中、目論むのは「自前の核」だ。

目前の朝鮮半島に「2つの核」が生じようとする今、日本にはその覚悟と具体的な対応が求められている。

◆本書オリジナル「朝鮮半島を巡る各国の動き」年表を収録

中国に立ち向かう日本、つき従う韓国』『中国という蟻地獄に落ちた韓国』『「踏み絵」迫る米国 「逆切れ」する韓国』『日本と韓国は「米中代理戦争」を闘う』 『「三面楚歌」にようやく気づいた韓国』『「独り相撲」で転げ落ちた韓国』『「中国の尻馬」にしがみつく韓国』『米中抗争の「捨て駒」にされる韓国』 に続く待望のシリーズ第9弾。2016年10月25日発行。

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