イランの核合意が後押し

 もう1つ、韓国人が恐れる理由があります。2015年に米国や中国など6カ国と、イランの間で核合意という先例ができたことです。

 イランが核開発のスピードを落とす見返りに、米欧は経済制裁の相当部分を解除する――との内容です。注意すべきはイランが約束したのは、決して「核兵器の完全廃棄」ではないことです。

 このスキームを朝鮮半島に当てはめれば、北は核・ミサイル実験を中断することで核開発の速度を落とす。見返りに、国連加盟国は制裁を一部解除し、米国も米韓合同軍事演習の中断など融和姿勢を見せる――ことになります。

 中国と北朝鮮はまずこの取引を実現し、それを手掛かりに「平和協定の締結」と「在韓米軍撤収」の交換を目指すでしょう(「表・朝鮮半島を巡る米中のカード」参照)。

朝鮮半島を巡る米中のカード
米国 中国
THAAD配備留保 従来より強い対北朝鮮制裁容認
米韓合同軍事演習の中断と一部制裁の解除 北朝鮮の核・ミサイル実験の中断
米朝平和協定(不可侵協定)の締結
 ・米朝国交正常化
 ・在韓米地上軍撤収
 ・在韓米軍撤収
 ・米韓同盟廃棄
北朝鮮の核兵器廃棄
 ・核弾頭の増産中断
 ・弾頭再突入技術の開発中断
 ・弾頭小型化技術の開発中断
 ・保有核兵器の全廃
「朝鮮半島の非核化・中立化」の制度的保障
注)左右の項目は必ずしも連動しない

 すでに米中の間で「THAAD配備の中断」と「従来よりも強い制裁」が取引された模様です。今後は「THAAD配備」ではなく「米韓同盟」がカード化されていくわけです。

朝鮮半島から「足抜け」

表の「平和協定」の項目は「米朝国交正常化」「在韓米地上軍撤収」「在韓米軍撤収」「米韓同盟廃棄」と4つに細分化されています。

鈴置:下に行くほど強力な――中国・北朝鮮に得なカードです。ただし、米国にとっても必ずしも悪い話ではありません。面倒な手間ばかりかかる朝鮮半島から「足抜け」できるのですから。韓国の保守にとっては悪夢となりますけれど。

 もし一番下の「半島の非核化・中立化の制度的保障」まで状況が進むと、彼らは「米国に見捨てられた」「やはり、自分たちは米・中の捨て駒だった」と意気消沈するでしょう。

 韓国を脱出する人も出るかと思います。なおこの際、日本が大陸に向き合う最前線になります。他人事ではありません。

どうしようもない韓国

結局、韓国はどうするのでしょうか。

鈴置:どうしようもありません。半島の将来を巡り、米中が繰り広げるゲームを見守ることしかできないのです。

 先に引用した東亜日報の社説「米中のTHAAD・平和協定の気流変化、韓国は不意打ちを食らうのではないか」(2月27日、日本語版)の最後の部分を要約します。

  • 北朝鮮の核問題で今回、米中は(韓国の背の届かない)高い空で駆け引きを繰り拡げた。当事者である韓国が脇役に追いやられる可能性があるという冷徹な現実に気づく。
  • 米中の気流変化を感知できずに両国の言いなりになることがないよう、政府は気を引き締めなければならない。