南ベトナムの二の舞に

「平和協定」のどこが問題なのでしょうか。

鈴置:交渉で北朝鮮が「休戦協定を結んだだけの状態から安定的な平和体制に移行するのだから、在韓米軍を撤収すべきだ」と言い出すのは確実です。そもそも、それこそが北が平和協定の締結を主張する目的なのですから。

 韓国人、特に保守派は在韓米軍の撤収により南北朝鮮の戦力、あるいは心理的なバランスが崩れたら、北朝鮮が攻撃してくる可能性が高いと信じています。だから安易に平和協定を結ぶなんて、彼らにとってはとんでもないことなのです。

 保守運動の指導者の1人、趙甲済(チョ・カプチェ)氏は北朝鮮の平和攻勢に強い危機感を抱き、このニュース以降しばしば、国民への警告記事を自分のサイトに載せています。

 「韓国が参加しない米朝の平和協定交渉はベトナムの再現だ!」(3月1日、韓国語)では以下のように主張しました。警告のポイントは、平和交渉が「北の核」容認につながる、という点です。

  • 韓国が参加しない米朝の平和協定交渉は、南ベトナムの敗亡を呼んだ「パリ平和交渉」の再現となる。受け入れることはできない。
  • 平和交渉は北の核放棄の後に限って行うべきだ。核の脅威が進行中に平和交渉すれば、北の核武装を事実上、認めることになる可能性が高い。
  • パリ平和協定が北緯17度線の南に進入した北ベトナム軍を認める一方、駐越米軍を撤収させたことにより、(南ベトナムの)共産化につながった。

米国の変節に不意打ち食らう

 今回の「米朝接触」のニュースに、保守派だけではなく普通の韓国人までがショックを受けました。成立しなかったとはいえ、米朝がいったんは平和協定を話し合う交渉に入りかけたからです。

 米韓はこれまで「平和協定」に関する話し合いについて、北朝鮮が先に核兵器を放棄するのなら応じてもよい、との姿勢で足並みをそろえてきました。

 でもWSJの記事によれば、米国は「北の核放棄」と「平和協定」を同時に話し合ってもよい、と姿勢を変えたのです。

 東亜日報は社説「米中のTHAAD・平和協定の気流変化、韓国は不意打ちを食らうのではないか」(2月27日、日本語版)で、そこに危機感を表明しました。

  • 当分は北朝鮮への制裁が続くだろうが、危機的状況がある程度落ち着けば、中国と北朝鮮が6カ国協議と平和協定交渉の並行を提起し、米国も前向きに検討する可能性が高い。
  • 最近、米国の専門家の間では、25年間維持してきた「『先』非核化、『後』平和協定」という対北交渉の枠組みを見直す兆しがある。
  • 制裁だけでは北朝鮮の核問題を解けない現実をあげて、平和協定交渉が必要だとする主張も少なくない。ロシアも平和協定の必要性に共感している。
  • しかし、平和協定は北朝鮮が主張する在韓米軍の撤収、米朝国交正常化などと連動している。北朝鮮が核を放棄するまで、韓国は受け入れられない。