「反中」できる国力なし
「空爆」ですか! ここまで言われたら、韓国は中国にそっぽを向きませんか?
鈴置:韓国人が中国への反感を高めたのは確かです。SNS(交流サイト)や新聞のネット版への読者の書き込み欄は、中国に対する罵倒で満ち溢れています。
ただ、反中感情が反中的行動につながるとは限りません。反中感情の根には恐中感情があります。中国を恐れるがゆえに、中国にすり寄っていく可能性も大いにあるのです。
韓国人は好き嫌いで国の針路を決められません。それを可能にするだけの国力と、地政学的位置を持たないからです。中国が大嫌いだろうと、中国には従わなければならぬことが多いのです。
日本人に「我々は中国が嫌いだ。だから離米従中なんてあり得ない」と言ってくる韓国人が多い。だが、それを鵜呑みにしてはなりません。彼らは、希望を語っているに過ぎないのです。
深まった恐中感情
邱国洪大使は外交官として、韓国人をあれだけ怒らせていいのかな、と思いながら見ていました。
鈴置:同じ質問を多くの日本人から受けました。私は「大使は外交官として実にうまくやった」と答えています。狙い通りに、韓国人が「恐中感情」を深めたからです。
もちろん、それで韓国人が直ちにTHAAD配備反対に回るとは限りません。しかしこの機会に韓国人により深く植え付けた「恐中感情」が今後、折に触れ効果を発揮するでしょう。
紳士的に話し合うよりも、理不尽にどやし付けた方が言うことをよく聞く――。韓国人というものを、中国人は見抜いています。隣国として、千年以上も付き合ってきた賜物でしょう。
それと比べると、日本人の対韓認識など底の浅いものです。譲歩すれば仲良くなれると勝手に思い込んでいるのですから。
米国人も分かっているとは言えません。韓国人の心の奥底をしばしば見落として失敗します。米国や日本の外交関係者は、邱国洪大使の爪の垢を貰った方がよいかもしれません。
朴槿恵がピエロになる日
韓国人が中国のマインドコントロールにはまったとしても、北の核の脅威を目前にした今現在は、米国を頼りにせざるを得ないのでは?
鈴置:それはそうです。ただ、対北朝鮮制裁案を米中が水面下で煮詰める過程で、韓国人は米国に対する不信感を抱き始めました。
米国の要求通りにTHAAD配備を受け入れた。その結果、中国から激しく脅され、関係も急速に悪化した。というのに、米国はTHAADを中国との交渉カードとして使っているようだ。強硬な制裁案を中国にのませるために、THAAD配備計画を引っ込めるかもしれない――と韓国人は疑い始めたのです。
もしそうなれば、突然に姿勢を転じ「THAAD配備は防衛に必須」と国民に訴えた朴槿恵政権は、梯子を外されてしまいます。ピエロになってしまうのです。
朴槿恵政権は露骨な「離米従中」路線を進めてきました。これはどうなるのでしょうか。
鈴置:確かに、米国の強力な圧力と北朝鮮の核・ミサイル実験により「離米従中」を続けるのは難しくなっています。でも、まだ分からない。韓国が米国側の国に戻ると判断するのは早いのです。
韓国でまた、反米感情が燃え上がるかもしれない。一方、米国もTHAADのみならず韓国という国自体をカード化し、中国との取引に使う――中国に売り飛ばすかもしれないのです。米国にも、韓国を見限ったフシが見られますしね。
(次回に続く)

2015年9月3日、朴槿恵大統領は中国・天安門の壇上にいた。米国の反対を振り切り、抗日戦勝70周年記念式典に出席した。
10月16日、オバマ大統領は、南シナ海の軍事基地化を進める中国をともに非難するよう朴大統領に求め、南シナ海に駆逐艦を送った。が、韓国は対中批判を避け、洞ヶ峠を決め込んだ。韓国は中国の「尻馬」にしがみつき、生きることを決意したのだ。
そんな中で浮上した「核武装」論。北朝鮮の核保有に備えつつ、米国の傘に頼れなくなる現実が、彼らを追い立てる。
静かに軋み始めた朝鮮半島を眼前に、日本はどうすべきか。目まぐるしい世界の構造変化を見据え、針路を定める時を迎えた。
『中国に立ち向かう日本、つき従う韓国』『中国という蟻地獄に落ちた韓国』『「踏み絵」迫る米国 「逆切れ」する韓国』『日本と韓国は「米中代理戦争」を闘う』 『「三面楚歌」にようやく気づいた韓国』『「独り相撲」で転げ落ちた韓国』に続く待望のシリーズ第7弾。12月15日発行。
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