元カノは要求を聞くべきだ

この中韓の微妙な関係に、北朝鮮や米国はどう絡むのでしょうか。

鈴置:THAADは国の安全を増すための雨戸のようなものです。最近、街を北朝鮮という怪しい人が徘徊するので、米国は雨戸を韓国――婚約中の女の子の家に取り付けようとした。

 すると韓国のもう1人のボーイフレンドである中国が「雨戸は俺に対する嫌がらせだ。もう会ってやらない」と言い出した。

 それにショックを受けた女の子が「あなたこそ、一番大事にしてきたじゃないの。だから、そんな怖いこと言わないで」と泣き出した――というのが今の構図です。

米国という婚約者がいるのに韓国という国は……。

鈴置:朴槿恵(パク・クンヘ)政権は米国と同盟を結びながら、米中対立案件ではほぼ、中国の言うことを聞くようになっていました。奇妙な三角関係が生まれていたのです(「米中星取表」参照)。

米中星取表~「米中対立案件」で韓国はどちらの要求をのんだか
(○は要求をのませた国、―はまだ勝負がつかない案件、△は現時点での優勢を示す。2016年2月29日現在)
案件 米国 中国 状況
日本の集団的自衛権
の行使容認
2014年7月の会談で朴大統領は習近平主席と「各国が憂慮」で意見が一致
米国主導の
MDへの参加
中国の威嚇に屈し参加せず。代わりに「韓国型MD」を採用へ
在韓米軍への
THAAD配備
韓国は米国からの要請を拒否していたが、2016年2月7日に「協議を開始」と受け入れた
日韓軍事情報保護協定 中国の圧力で署名直前に拒否。米も入り「北朝鮮の核・ミサイル」に限定したうえ覚書に格下げ
米韓合同軍事演習
の中断
中国が公式の場で中断を要求したが、予定通り実施
CICAへの
正式参加(注1)
正式会員として上海会議に参加。朴大統領は習主席に「成功をお祝い」
CICAでの
反米宣言支持
2014年の上海会議では賛同せず。米国の圧力の結果か
AIIBへの
加盟 (注2)
米国の反対で2014年7月の中韓首脳会談では表明を見送ったものの、英国などの参加を見て2015年3月に正式に参加表明
FTAAP (注3) 2014年のAPECで朴大統領「積極的に支持」
中国の
南シナ海埋め立て
米国の対中批判要請を韓国は無視
抗日戦勝
70周年記念式典
米国の反対にも関わらず韓国は参加
(注1)中国はCICA(アジア信頼醸成措置会議)を、米国をアジアから締め出す組織として活用。
(注2)中国はAIIB(アジアインフラ投資銀行)設立をテコに、米国主導の戦後の国際金融体制に揺さぶりをかける。
(注3)米国が主導するTPP(環太平洋経済連携協定)を牽制するため、中国が掲げる。

 ただ、それも分からないでもない。韓国からすれば、中国は米国とは比べものにならないほど長い間付き合ってきた元カレなのです。

 朝鮮半島の歴代王朝は、千年以上も中国大陸の王朝に朝貢してきたのですから。もちろん中国も「元カノだった韓国は、自分の要求を聞くのが当然だ」と考えています。

怪しげな「大使には抗議」

 いずれにせよ今回、韓国は中国の仕掛けたワナにきれいにはまってしまいました。大使発言に感情的に反発することで、中国の力に怯えている――つまり、中国に全力で抗する覚悟がないことを、問わず語りに告白してしまったのです。

 中国は「脅しの効果は大きかった」とほくそ笑んで、必要になればまた、この手を使うでしょう。

 メディアが大騒ぎしたものですから、韓国政府も対応せざるを得なくなりました。青瓦台(大統領府)のスポークスマンは2月24日「THAAD配備は自衛権の措置」と邱国洪大使に反駁しました。

 同じ日に「外交部も中国大使に抗議した」と韓国メディアが一斉に書きました。例えば、聯合ニュースの「中国大使呼び抗議『THAAD配備なら関係破壊』発言で=韓国」(2月24日、日本語版)は見出しと前文でそう報じています。もっともこの記事の本文を読むと、本当に抗議したかは怪しい。以下です。

  • 外交部は「キム・ホンギュン次官補が邱大使を呼び、関連報道内容について議論した」、「邱大使は(金鍾仁非常対策委員会代表との会談の)経緯や実際の発言内容、報道内容の正確性などについて誠意を持って説明した」と伝えた。
  • ただ、邱大使に「抗議した」との表現は使わなかった。邱大使が遺憾の意を表明したかどうかについても明らかにしなかった。