「体制崩壊」に言及した大統領
3年前と同じように、韓国の市場は当分荒れるということでしょうか?
鈴置:市場予測は難しいし、安易にすべきでもないと思います。でも、2013年当時以上に「荒れる」要因がそろっているのは事実です。まず、南北の対決が異次元の厳しさを見せていることです。
朴槿恵大統領は2月16日の国会演説で「工業団地閉鎖」に触れた際、以下のように述べました。聯合ニュースの「朴大統領、対北政策大転換……『北政権変化』体制崩壊まで言及」(2月16日、韓国語版)に添付された動画で発言を視聴できます。
- 北の政権が核では生存できず、むしろ体制崩壊を早めるだけだということを痛切に悟り、自ら変化するしかない環境を作るために、より強力で実効的な措置をとっていきます。
北に関し「体制崩壊」という言葉を朴槿恵大統領が使ったのは初めてです。北朝鮮との対決姿勢を明快に打ち出したのです。
だから、対話と安定の象徴である開城工業団地の再開の可能性も極めて低い。北の体制打倒を目指す一環ですから、北朝鮮が核を放棄しない限り、韓国は再開には踏み切らないでしょう。
一方、3年前の「工業団地閉鎖」は北朝鮮側によるものでした。発足間もない朴槿恵政権を揺さぶるのが目的です。しかし韓国側が放っておいたので、ドルが欲しい北側が結局は折れて再開しました。
金正恩第1書記も、朴槿恵大統領に「体制崩壊」とまで言われれば黙ってはいられないでしょう。最低限、次なるミサイル発射や韓国に対するテロ、局地攻撃をするフリでもしなければ格好がつきません。それだけでも十分に韓国市場を揺さぶれますしね。
日本とのスワップは消滅
ハンギョレ風に言えば、韓国市場を揺らすのには南の政権も協力してくれている、ということになりますね。
鈴置:韓国政府としては国民にテロへの警戒を呼び掛けないわけにもいかない。痛し痒しです。ハンギョレは、政府がテロ説を流すのも陰謀だ、と言いたそうですが。
2013年当時よりも韓国市場が荒れるであろう理由が、もう1つあります。冒頭で説明したように「北朝鮮リスク」が発生する前から世界経済には「リスク」が山積し、韓国からの資本流出が起き始めていたのです。これが韓国政府にとってつらいところです。
2013年当時は、韓国は日本との通貨スワップも維持していましたが、今回はありません。
鈴置:その差も大きい。日本とのスワップは2013年春の段階で2本、残っていました。ただ、いずれの期限が来ても韓国は更新しようとしませんでした。結局、2015年2月をもって日韓の2国間スワップは完全に消滅しています。
相手国 | 規模 | 締結・延長日 | 満期日 | 中国 | 3600億元/64兆ウォン(約560億ドル) | 2014年 10月11日 |
2017年 10月10日 |
---|---|---|---|
UAE | 200億ディルハム/5.8兆ウォン(約54億ドル) | 2013年 10月13日 |
2016年 10月12日 |
マレーシア | 150億リンギット/5兆ウォン(約47億ドル) | 2013年 10月20日 |
2016年 10月19日 |
豪州 | 50億豪ドル/5兆ウォン(約45億ドル) | 2014年 2月23日 |
2017年 2月22日 |
インドネシア | 115兆ルピア/10.7兆ウォン(約100億ドル) | 2014年 3月6日 |
2017年 3月5日 |
CMI<注> | 384億ドル | 2014年 7月17日 |
金融面でも中国を頼めるようになったから日本とのスワップは不要、との判断でした。2013年6月に訪中した朴槿恵大統領は中国とのスワップを3年間、延長することで合意しています。
なお、日本とのスワップ終了により、韓国はドルを借りられる2国間スワップは全て失いました。相手先の通貨で借りるスワップだけが残っています。
中国から借りられるのは人民元です。韓国の債券はドル建てがほとんどですから、いざという時にこのスワップで直ちに対応できるかは分かりません。
中国とも喧嘩、市場は底なし沼?
地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)配備の問題で、韓国は中国を怒らせてしまった。前回の「『THAADは核攻撃の対象』と韓国を脅す中国」によれば、人民元建てスワップでさえ、中国が発動してくれるか分からない、とのことでしたね。
鈴置:そこがポイントです。市場も「中韓スワップは機能しないのではないか」と見なし始めました。投資家はそれを織り込んで動きますから、韓国の株も為替も底なし沼に陥る可能性が出てきたのです。
(次回に続く)

2015年9月3日、朴槿恵大統領は中国・天安門の壇上にいた。米国の反対を振り切り、抗日戦勝70周年記念式典に出席した。
10月16日、オバマ大統領は、南シナ海の軍事基地化を進める中国をともに非難するよう朴大統領に求め、南シナ海に駆逐艦を送った。が、韓国は対中批判を避け、洞ヶ峠を決め込んだ。韓国は中国の「尻馬」にしがみつき、生きることを決意したのだ。
そんな中で浮上した「核武装」論。北朝鮮の核保有に備えつつ、米国の傘に頼れなくなる現実が、彼らを追い立てる。
静かに軋み始めた朝鮮半島を眼前に、日本はどうすべきか。目まぐるしい世界の構造変化を見据え、針路を定める時を迎えた。
『中国に立ち向かう日本、つき従う韓国』『中国という蟻地獄に落ちた韓国』『「踏み絵」迫る米国 「逆切れ」する韓国』『日本と韓国は「米中代理戦争」を闘う』 『「三面楚歌」にようやく気づいた韓国』『「独り相撲」で転げ落ちた韓国』に続く待望のシリーズ第7弾。12月15日発行。
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