井戸の周りでお焦げを探す

米国は「これ以上甘やかすともっと付け上がる」と考えた……。

鈴置:平昌五輪の開会式の貴賓席の写真が象徴的でした。金与正・第1副部長に、文在寅大統領が握手を求めて手を差し出す。それを安倍晋三首相がいぶかしげに見つめ、ペンス(Mike Pence)副大統領はあらぬ方向を見たまま……。

 南北の和解劇というか、やりたい放題を米国がどう見ているか、よく分かる光景でした。ペンス副大統領は開会式直前のレセプションにも5分間、顔を出しただけ。用意された晩餐の席に座りもしませんでした。

 韓国の保守も「そろそろ米国が怒り出すぞ」と首をすくめていた。そこに鉄鋼の輸入制限案の発表。「ついに米国が報復に乗り出してきた」と悲鳴をあげたのです。

「鼻血作戦」に韓国政府はどう対応しましたか。

鈴置:とりあえずは低姿勢を見せました。米商務省の発表の翌2月17日、文在寅大統領が「南北首脳会談は急がない」と語りました。平昌五輪プレスセンターで記者からの質問に答えました。

 中央日報の「文大統領『南北首脳会談の可能性、少し性急なようだ』」(2月18日、日本語版)から、大統領の発言を拾います。

  • (南北首脳会談は)井戸の周りでお焦げを探すようなもの(せっかちを諌める韓国のことわざ)。多くを期待しているが性急なようだ。
  • 米朝間でも対話が必要だという共感が少しずつ高まっている。いま進められている南北対話が米朝間の非核化対話につながることを待っている。

 2月10日、金与正・第1副部長の口頭での訪朝要請に対し、文在寅大統領は「これから条件を整えて実現していきましょう」と答えています。それと比べやや、後退した感じです。

裏では北朝鮮と交渉

左派政権とはいえ、米国の経済制裁は恐ろしいのですね。

鈴置:景気が失速したら支持層の左派からも不満が噴出するでしょう。一方、米国との関係悪化を恐れる保守はほっとしたようです。

 文在寅発言を論じた東亜日報の2月19日の社説。「『井戸でお焦げ』 南北首脳会談を焦るなと警戒した文大統領」(韓国語版)という見出しからして安堵感が漂いました。結論部分では以下のように主張し「首脳会談に走るな」と念を押しましたが。

  • 文大統領は対北特使などの適切な方法を通じ、北朝鮮と米国の対話なしに、南北対話を期待することは「井戸でお焦げを求める」ことだと金正恩にはっきりと伝えねばならぬ。

 朝鮮日報はもう少し疑り深かった。同じ2月19日の社説「文大統領『南北首脳会談は井戸でお焦げ探しと同じ』」で、まずは「現状に変化がない限り、南北首脳会談は時期尚早との考えを明確にした」と大統領の発言を評価しました。

 しかし「文大統領の周辺の多くは異なる考えを持っているようだ。裏で国家情報院を使って北と首脳会談に関する交渉をしながら、表面では文大統領が『速度調節』発言をしているとの観測も一部にある」と牽制しました。

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