丸腰だった韓国

THAADは効果があるのですか?

鈴置:専門家によると、常に100%の敵のミサイルを撃ち落とせるとは限らないそうです。しかし韓国はこれまでミサイルに対する防衛能力をほとんど持っていませんでした。それから考えると大きな前進でしょう。

 韓国軍が保有する唯一のミサイルを迎撃するミサイルは旧式のPAC2。射程が短いので対応可能な時間が少なく、北朝鮮から発射されたミサイルを撃ち落とすのは難しいとされています。

 韓国は米国や日本が装備する海上発射型のSM3のような、大気圏外で迎撃するミサイルも持っていません。はっきり言えば、丸腰だったのです。

 THAADはSM3ほどではありませんが、PAC2やその発展形のPAC3よりも高空で敵のミサイルを落とせます。配備すれば丸腰状態から脱することができます。

在韓米軍基地へのTHAAD配備は、軍事的にかなり大きな意味があるのですね。

鈴置:政治的にも極めて大きな意味があります。韓国は米国の核の傘に不信感を持ち始めました。

 仮に北朝鮮が米国に対し「南北の軍事衝突に介入したら、ロサンゼルスを核攻撃する」と宣言した時に、米国が韓国を助けてくれるのか、との疑問です。この疑いは、北が核ミサイルを持つ可能性が高まるほどに――時間とともに、深まります。

米国の傘の綻び

だから韓国で核武装論が叫ばれているのですね。

鈴置:その通りです。米国の核の傘が信じられない以上、自分で核を持つしかない――との発想です(「やはり、韓国は『核武装』を言い出した」参照)。

 韓国にとってもう1つの解決法は、米国の核ではなく中国の核の傘の下に入る手です。北は中国に経済的に完全に依存しています。中韓同盟により、中国が韓国を助けようとした際「それなら瀋陽を核攻撃する」と北は言えないのです。

つまり、在韓米軍に配備されるTHAADとは……。

鈴置:米国の核の傘を補強するという、心理的、政治的な意味も持つのです。米国は北朝鮮に対し核兵器で報復してくれないかもしれない。でも、北の核や通常弾頭のミサイルをそれなりに撃墜できることになれば、北の核の脅しの威力も半減するのです。

 この安心感により、米韓同盟の信頼性がかなり増す計算になるのです。そもそも、米国がTHAADを開発したのは、核を持たない同盟国を安心させるのが目的だったとの解説もあります。

 逆から言えば、中国が韓国に「THAADを配備させるな」と命じたのも、韓国人に米国の核の傘の綻びに目を向けさせ、米韓同盟を消滅に追い込むのも目的だったのです。

日本にすでにXバンドレーダー

中国はTHAAD反対の理由に「自国の脅威になる」ことを掲げていましたが。

鈴置:THAADの一部である高性能のXバンドレーダーが中国の上空を奥地まで見通してしまうから、との理屈です。確かに中国は海岸から遠く離れた山奥に、ICBM(大陸間弾道弾)の発射基地を構えています。

 しかし日本の専門家によると、中国の主張はへ理屈だそうです。なぜなら米軍は日本の2カ所にXバンドレーダーを配備済み。新たに韓国に配備しても、さほど偵察能力は増さないからです。

 要は、中国は色々と理屈を挙げて韓国を脅し、韓国を米国から引きはがそうとしてきたのです。

THAAD配備には自分たちの命がかかっています。それを中国の圧力くらいで拒否してきたとは……。ここが分からないのです。

鈴置:THAADが必須の武器とは思っていないからです。北朝鮮は同族である自分たちに核は使わないだろう、と韓国人は心のどこかで思っています。

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