軍事パレードで危機感あおる

「演習は少し後ろにずらしただけ」という姿勢ですね。

鈴置:そこで北朝鮮と韓国の「親北」政権は、揺さぶりに出ました。趙明均長官は1月26日の講演で、五輪開会式の前日に実施されると見られる北朝鮮の軍事パレードを材料に、危機感を煽ったのです。

  • 北朝鮮が2月8日、大規模な軍事パレードを準備している。かなり大きな規模の兵力と、北朝鮮が持つほとんどの兵器をこのように(動員)することで、相当に脅威のある軍事パレードになる可能性が高い。
  • 北朝鮮は今年、政権樹立70周年の建軍節(軍創建記念日)を迎える。金正恩委員長は後継者の立場を完全に固めるため、党や国家が主催する行事を大々的に展開している。

緊張を激化する合同演習はやめろ、と言うのですか?

鈴置:そこまで露骨には言っていませんが「米朝は取引できる」と謎をかけたのです。趙明均長官の本心は「北朝鮮が軍事パレードを中止する代わりに、米国は合同演習をやめるか再延期すべきだ」ということと思われます。講演で以下のように語っています。

  • 時間内に(合同演習が始まると見られる3月25日ごろまでに)北朝鮮と米国の間で対話が始まるよう、誘導するのが重要だ。

 米朝対話が始まるなら、合同演習は再延期される可能性が高い。というか、再延期しないと北朝鮮は米国との対話は受けない。

 一方、北朝鮮が平昌五輪の開始前日の2月8日に軍事パレードを実施した場合、面子を潰された米国は対話に応じないでしょう。

 文在寅(ムン・ジェイン)政権は米朝対話の開始を名分に、軍事パレードの中止と合同演習の再延期を取引させたいのです。

ウソ臭い2月の建軍節

そんなに上手くいくのですか。

鈴置:難しいと思います。韓国の主張は、要は北朝鮮への圧力を弱めろ、ということです。合同演習を含め軍事的な圧力は経済制裁と並び、北朝鮮に核・ミサイル開発を放棄させるための貴重な手段です。

 北朝鮮は米国まで届くICBM(大陸間弾道弾)を実用化する直前の段階まで来ています。今、圧力を弱めれば、状況は米国や日本にとって一気に悪い方向に傾きます。

 その方向に韓国が持って行こうと画策しているのですから、米国の目には当然「南北が組んで米国をだまし、時間稼ぎしている」と映ります。そもそも「2月8日の軍事パレード」というのがウソ臭い。

 北朝鮮の建軍節は1978年以降、4月25日と定められており、この日に軍事パレードを実施したこともありました。それが、今年から建軍節は2月8日――五輪開始前日――だと1月22日に突然、言い出したのです(日経・電子版「北朝鮮、軍創設の記念日 2月8日を指定」参照)。

 2月の平壌(ピョンヤン)は極寒で、屋外活動には不向きです。「合同演習と取引するためのカード」を急きょ作ったな、と思うのが普通です。

「闘争しろ」と北から指令

米国が韓国を疑うのも無理はない。

鈴置:趙明均長官も1月26日の講演で、それをポロリと漏らしました。先ほど引用した朝鮮日報の記事によると、以下のように語ったのです。

  • 現在、進行中の状況(南北対話)に関し米国は支持しているが、憂慮しているのも事実だ。米国が我が国の政府に対し様々の疑いを持っているとの指摘もある。そんな点にも神経を使っている。

趙明均長官も、韓国が米国や日本から疑いの目で見られていることは分かっている……。

鈴置:でも、だからと言って北朝鮮との共闘をやめるわけにはいきません。文在寅政権の中枢部――青瓦台(大統領府)では北朝鮮と極めて近い、親北派の活動家が要職を占めています。

 冒頭に引用した朝鮮中央通信の「朝鮮政府・政党・団体連合会議」という記事に以下のくだりがあります。

  • (報告者と各討論者は)北と南、海外の全同胞は北南関係の改善を妨げ、情勢を緊張させようとする内外の好戦勢力の北侵戦争策動に反対する闘争を繰り広げなければならないと述べた。

 北朝鮮から「北侵戦争策動に反対する闘争を繰り広げろ」と指令が下りたのです。米韓合同軍事演習は何が何でも阻止せねばなりません、親北政権としては。

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