虚勢を張って通貨防衛

この記事が正しいのなら、日本にスワップを頼む必要はなさそうですが……。

鈴置:記事は正しくありません。韓国の外貨準備は「張り子の虎」です。外貨準備が3700億ドルあるといっても、韓国銀行の金庫にドルの札束で積んであるわけではありません。

 様々の国の債券で運用していますが、金利は高いけれど信用度の低い債券が相当部分を占めると市場は見なしています。いざという時に使えるのは最大限で30%程度――1000億ドルぐらいというのが市場の見立てです。

 2国間のスワップもドルベースのものはありません(「韓国のスワップ」参照)。人民元や豪ドル、インドネシアのルピア、マレーシアのリンギを貸してもらっても、緊急時にはさほど役に立ちません。やはり「張り子の虎」なのです(「『中国側に寝返る韓国』にスワップは追い銭」参照)。

韓国の通貨スワップ(2017年1月29日現在)
相手国 規模 締結・延長日 満期日
中国 3600億元/64兆ウォン(約560億ドル) 2014年
10月11日
2017年
10月10日
豪州 50億豪ドル/5兆ウォン(約45億ドル) 2014年
2月23日
2017年
2月22日
インドネシア 115兆ルピア/10.7兆ウォン(約100億ドル) 2014年
3月6日
2017年
3月5日
マレーシア 150億リンギ/5兆ウォン(約43億ドル) 2017年
1月25日
2020年
1月24日
CMI<注> 384億ドル 2014年
7月17日
<注1>CMI(チェンマイ・イニシアティブ)は多国間スワップ。IMF融資とリンクしない場合は30%まで。
<注2>カッコ内は締結・延長時の米ドル相当額
資料:韓国各紙

 結局、通貨危機時に介入資金として使えるのは外準の真水部分の約1000億ドルと、CMIの100億ドル強だけ。強烈なウォン売りを浴びせられたら10日と持たないはずです。

 だからこそ韓国政府は「大丈夫だ」と虚勢を張っているのでしょう。ここで弱気な姿勢を見せたら、通貨攻撃を受けかねません。

 韓国の外貨繰りには新たな不安要因も生まれました。在韓米軍へのTHAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)配備を巡り、中国との関係が一気に悪化したからです。

制裁はヒト、モノからカネに

今年10月に満期が来るスワップを延長してもらえない、との懸念ですね。

鈴置:それだけではありません。もっと怖いのは「韓国売り」です。世界の金融市場が不安定な時に、中国の政府系ファンドが持っている韓国の株式や債券を一斉に売ったら、あるいは売る気配を見せるだけで通貨危機を起こすことが可能です。

 中国は韓国の債券をかなり持っています。韓国経済新聞の「中国、韓国国債の『最大保有国』に」(2016年3月18日、日本語版)によると2016年2月の段階で、中国の韓国国債の保有高は米国を抜いて1位に浮上していました。

 現在、中国は韓国への経済制裁を実施中で、その強度を日増しに増しています。韓国製品の輸入規制と中国人旅行者の韓国旅行の制限、それに政府高官の面談も減らしています。モノとヒトの面での制裁――嫌がらせです(「中国が操る韓国大統領レース」参照)。

 残る手口はカネで、その1つが韓国の株と債券の投げ売りです。ただ、これまではネックがありました。中国が「韓国売り」に動いても、韓国が日本とスワップを結びドルを借りれば対抗できるからです。

 しかし1月6日、日本がスワップ協定に向けた協議の中断を宣言しました。中国が金融で攻めても、韓国に援軍は来ないことが明らかとなりました。

中国は韓国に「カネを引きあげるぞ」と脅しているのですか?

鈴置:そんなに露骨なことをする必要はありません。市場が「中国がいつ『韓国売り』に出るか分からない」と見なし、その危うい状況を韓国政府が認識すれば、中国の顔色を見て動くしかなくなります。