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人権蹂躙国家とスクラム

「亡国の危機」ですか!

鈴置:「世の中がよく見えている」韓国人は今、絶望に陥っています。米国からは同盟を打ち切られそうになっている。韓国が米国を裏切って北朝鮮の核武装に協力しているからです(「『米韓同盟消滅』にようやく気づいた韓国人」参照)。

 そこに起きたレーダー照射事件。日韓関係は悪化する一方で修復のメドがたちません。左派政権の「反日」は「反米」の伏線です(「『現場の嫌がらせ』では済まないレーダー事件」参照)。米国との同盟はさらに危くなるでしょう。

 問題は米国との関係に留まりません。人権蹂躙国家の北朝鮮とスクラムを組んで、その核武装を幇助する文在寅政権の異様さが世界に知れ渡りました。北朝鮮だけではなく韓国も「危ない国家」と認定され始めたのです(「北朝鮮と心中する韓国」参照)。

 周辺国家と世界はテロ国家たる北朝鮮の核武装を全力で阻止するでしょうから、文在寅政権の狙う「民族の核」の実現は容易ではない(「半島がまた、きな臭くなってきた」参照)。

 仮に成功してもそれはあくまで北朝鮮の核。韓国が核を持つ北の支配下に入るのは確実です。それに普通の韓国人が耐えられるとは思えません(『米韓同盟消滅』第1章第4節「『民族の核』に心躍らせる韓国」参照)。

 国が危機にあるというのに指導層は権力闘争に没頭する。国民は政府やメディアに扇動され、「積幣清算」や「反日」に浮かれる。国が奈落の底に堕ちて行くのに、見動きがとれないのです。

今回は「出口」なし

韓国の混乱は収拾できない?

鈴置:1960年に李承晩政権がデモで倒れた後の混乱は翌1961年、反共を掲げる軍人のクーデターにより収拾されました。

 私は1987年から5年間ソウルに住みましたが、当時を知る韓国人の中には「クーデターが起きなかったら韓国は北朝鮮に吸収されていた」と説明する人がかなりいました。

 クーデター自体には賛成しないが、北朝鮮の一部となるよりはましだった、というのです。もちろん「あのクーデターによって成立した軍事政権が韓国の民主主義を破壊した」と言う人もいましたが。

今回はもう起きない……。

鈴置:……と、多くの韓国人が言います。軍人もサラリーマン化して、もはやクーデターを起こす根性はない、との理由です。今回は良かれ悪しかれ「出口」はないのです。

 自分たちを、集団自殺するとされるレミングに例える韓国人が出てきました。その1人が趙甲済(チョ・カプチェ)ドットコムの金泌材(キム・ピルジェ)記者です。

 「『レミング効果』に見る『韓国人の群衆心理』」(2016年11月16日、韓国語)は「ろうそく集会」が始まった頃に書かれた記事です。

 書かれた時点では朴槿恵大統領が弾劾されることまで想像した人はあまりいませんでした。それによる左派政権登場と、米韓同盟の危機を予想した人も少なかった。

 しかし金泌材記者は韓国人の扇動に弱い体質を指摘し、国が危くなると当時から警鐘を鳴らしていたのです。

韓国はどうなる?

鈴置:この段階に至っては手遅れと思います。北朝鮮との共闘路線を修正するのは難しい。それが左派政権の存在理由なのですから(『米韓同盟消滅』第1章第1節「米韓同盟を壊した米朝首脳会談」参照)。

 それに米国や日本は「北朝鮮の使い走り」と見なして韓国に向き合うようになりました。米国は今、韓国との「思いやり予算」交渉でいつになく強硬です。

 米国の専門家は在韓米軍の削減・撤収まで公言し始めました。いざとなれば韓国との同盟をやめてもいいのだ、との合意が米政界に広がっているのです。

 「レーダー照射事件」で日本が韓国を徹底的に追い詰めているのも「韓国が仮想敵になりつつある」との認識があずかっています。

 韓国はもう、奈落の底に堕ちて行くだけと思います。

*この連載は今回が最終回です。記事最後に著者から読者の皆さまへのご挨拶があります。

■トランプ大統領の韓国国会演説(2017年11月8日)のポイント(1)

北朝鮮の人権侵害を具体的に訴え

  • 10万人の北朝鮮人が強制収容所で強制労働させられており、そこでは拷問、飢餓、強姦、殺人が日常だ
  • 反逆罪とされた人の孫は9歳の時から10年間、刑務所に入れられている
  • 金正恩の過去の事績のたった1つを思い出せなかった学生は学校で殴られた
  • 外国人を誘拐し、北朝鮮のスパイに外国語を教えさせた
  • 神に祈ったり、宗教書を持つクリスチャンら宗教者は拘束、拷問され、しばしば処刑されている
  • 外国人との間の子供を妊娠した北朝鮮女性は堕胎を強要されるか、あるいは生んだ赤ん坊は殺されている。中国人男性が父親の赤ん坊を取り上げられたある女性は「民族的に不純だから生かす価値がない」と言われた

北朝鮮の国際的な無法ぶりを例示

  • 米艦「プエブロ」の乗員を拿捕し、拷問(1968年1月)
  • 米軍のヘリコプターを繰り返し撃墜(場所は軍事境界線付近)
  • 米偵察機(EC121)を撃墜、31人の軍人を殺害(1969年4月)
  • 韓国を何度も襲撃し指導者の暗殺を図った(朴正煕大統領の暗殺を狙った青瓦台襲撃未遂事件は1968年1月)
  • 韓国の艦船を攻撃した(哨戒艦「天安」撃沈事件は2010年3月)
  • 米国人青年、ワームビア氏を拷問(同氏は2016年1月2日、北朝鮮出国の際に逮捕。2017年6月に昏睡状態で解放されたが、オハイオに帰郷して6日後に死亡)

「金正恩カルト体制」への批判

  • 北朝鮮は狂信的なカルト集団に支配された国である。この軍事的なカルト集団の中核には、朝鮮半島を支配し韓国人を奴隷として扱う家父長的な保護者として指導者が統治することが宿命、との狂った信念がある
これまで読んで下さった皆さまへ
  今回で「早読み 深読み 朝鮮半島」の連載を終えます。2012年1月以降、7年間も続けることができたのは、ひとえに熱心に読んで下さった皆さまのおかげです。本当にありがとうございました。

 2018年12月14日に参議院議員会館で開かれた国際セミナー「激動する朝鮮半島情勢の下で拉致被害者救出を考える」を取材しました。「半島がまた、きな臭くなってきた」で紹介した集まりです。

 受付でお目にかかった拉致被害者の家族の方々から「毎回、読んでますよ」「記事を読むために日経ビジネスオンラインに登録しました」と声をかけられました。

 この連載で拉致問題に触れたことはほとんどありません。しかし家族の皆さんは朝鮮半島情勢を勉強しようと、藁にもすがる思いで読んで下さっていたのです。それを知り、身の引き締まる思いでした。

 記事を書くにあたって、匿名の方々にも支えられました。日本語で「シンシアリーのブログ」をお書きになる韓国の歯科医師さん。冷静な韓国人が「動乱の韓国」をどう見ているかを紹介するために、ブログを何度か引用させていただきました。

 「新宿会計士の政治経済評論」というサイトを主宰される公認会計士さん。日本の危機を防ごうと、専門知識をフルに発揮した評論を書いておられます。「通貨スワップと為替スワップについて、改めて確認してみる」など、大いに参考にさせていただきました。

 私の英文和訳の誤りを掲載日の早朝に指摘下さった方がおられます。慌てて直したものです。匿名の恩人の方々にもこの場を借りて深くお礼を申し上げます。

 今回の記事で紹介したAさんの指摘通り、2019年の朝鮮半島は劇的な展開が予想されます。その際、日本も何らかの形で巻き込まれるのは確実です。覚悟を固める時が来ました。

【著者最新刊】『米韓同盟消滅』

米朝首脳会談だけでなく、南北朝鮮の首脳が会談を重ねるなど、東アジア情勢は現在、大きく動きつつある。著者はこうした動きの本質を、「米韓同盟が破棄され、朝鮮半島全体が中立化することによって実質的に中国の属国へと『回帰』していく過程」と読み解く。韓国が中国の属国へと回帰すれば、日本は日清戦争以前の「大陸と直接対峙する」国際環境に身を置くことになる。朝鮮半島情勢「先読みのプロ」が描き出す冷徹な現実。

第1章 離婚する米韓
第2章 「外交自爆」は朴槿恵政権から始まった
第3章 中二病にかかった韓国人
第4章 「妄想外交」は止まらない

2018年10月17日発売 新潮社刊