「アラブの春」になるな

その懸念を新聞など大手メディアは報じないのですか?

鈴置:それは難しい。「朴槿恵を引きずり降ろしたデモ」は「名誉革命」なのです。民族の優秀性を示す「誇り」となったのです。それを「クーデターの引き金」呼ばわりできません。

 ただ2016年の年末になって、ようやく1本だけですが大手紙でそれを示唆する記事を見つけました。東亜日報のホ・ムンミョン論説委員が書いた「広場民主主義、『アラブの春』を避けようとするなら」です。要約しつつ訳します。

  • 2011年に起きた「ウォール街を占拠せよ」などの西欧の市民闘争と、イスラム圏の市民闘争はいずれも米国発の金融危機と景気後退、二極化に起因した。ただ、解決の過程では大きな違いを見せた。
  • 成熟した市民社会を持ち、自由民主主義の経験が蓄積された西欧では問題は選挙に集約され、政策の変更を生んだ。一方、民主主義の経験が浅い国ほどクーデター、内戦など無政府状態につながるのが実情だ。先進国と後進国の違いはここで出る。
  • ろうそく(弾劾推進派)、太極旗(弾劾反対派)の双方が国を考えるという点では同じだ。お互いに理解し尊重し合い、国家改造のために力を合わせよう。「アラブの春」にならないために。

なぜ、「ようやく2016年の年末になって」こうした記事が載ったのでしょうか。

鈴置:事実上の大統領レースが始まり、左右対立が激化したからです。民衆革命に勝利した左派は既得権勢力――保守党、検察、財閥、保守メディア――潰しに動いています(「『ロシア革命』に変容する韓国の『名誉革命』」参照)。

 当然、粛清される側は死に物狂いで逆襲します。ホ・ムンミョン論説委員は「民主主義の経験が浅い国ほどクーデター、内戦など無政府状態につながる」と心配になったのでしょう。

趙甲済は内乱扇動罪だ

米国はどう出るのでしょうか。

鈴置:分かりません。韓国では2012年12月の大統領選挙の前にも「クーデター論争」が起きました。まず、趙甲済氏が「選挙をちゃんとせねば流血は防げない」(2012年1月30日、韓国語)を書きました。短い記事なので全文を訳します。

  • 理念の葛藤は宗教戦争のような内戦を呼び得る。愚かな国民が選挙で誤り、従北分子が政権を握って国軍を指揮するようになると、内戦的構図が生まれる。
  • 反逆者が軍統帥権を握れば、軍隊が黙っていない。選挙をちゃんとやってこそ流血を防げる。1936年に起こったスペイン内戦を研究する必要がある。愛国市民がこの点を広く知って初めて悲劇を防ぐことができる。

 左派系紙のハンギョレが直ちに反撃しました。「趙甲済『愚かな国民が選挙を誤れば・・・』」(2012年1月30日、韓国語版)です。ポイントを訳します。

  • 趙甲済氏の記事は「野党が勝てばクーデターが起こり得る」と解釈できる。これに対し、コ・ジョンソク前・韓国日報論説委員はツイッターで「趙甲済氏を内乱扇動罪で拘束せねばならない。政権が代われば軍が黙っていないとの脅迫ではないか」とつぶやいた。

米国は許すのか

 私は「微妙な動きだな」と考え、当時の「早読み 深読み 朝鮮半島」で触れました。「『中国に屈従か、核武装か』と韓国紙社説は問うた」(2012年2月21日)です。

 在韓米軍はもっと深く動きを観察していたと思われます。韓国軍に対し「軽挙妄動するな」と警告した模様です。その頃に米軍幹部が「もう今度はクーデターを許さない」と語るのを、日本の専門家が直接聞いています。

「もう今度は」とは?

鈴置:韓国では1961年の「5・16」と1979年の「粛軍」の2回のクーデターが起きました。いずれも在韓米軍への事前通告はなく、米国は追認する羽目に陥りました。

 1952年には独裁を強める李承晩政権を倒す計画を、米軍の黙認のもと国軍が練ったようです。朴正煕大佐(当時)も計画策定に加わっていました。趙甲済氏が書いた伝記『朴正煕』(日本語版)の第4章に詳しく記されています。

では、2017年の米国はどうするのでしょうか。

鈴置:それは分かりません。ただ、興味深いことがあります。冒頭で紹介した趙甲済氏の「クーデターの正当性を主張する記事」が珍しくも英語に訳されているのです。趙甲済ドットコムの「Revolutionary Changes to Expect After Park's Resignation」(2016年11月19日)で読めます。

次回に続く)

大好評シリーズ最新刊 好評発売中!
Amazon「朝鮮半島のエリアスタディ 」ランキング第1位獲得!
孤立する韓国、「核武装」に走る

■「朝鮮半島の2つの核」に備えよ

北朝鮮の強引な核開発に危機感を募らせる韓国。
米国が求め続けた「THAAD配備」をようやく受け入れたが、中国の強硬な反対が続く中、実現に至るか予断を許さない。

もはや「二股外交」の失敗が明らかとなった韓国は米中の狭間で孤立感を深める。
「北の核」が現実化する中、目論むのは「自前の核」だ。

目前の朝鮮半島に「2つの核」が生じようとする今、日本にはその覚悟と具体的な対応が求められている。

◆本書オリジナル「朝鮮半島を巡る各国の動き」年表を収録

中国に立ち向かう日本、つき従う韓国』『中国という蟻地獄に落ちた韓国』『「踏み絵」迫る米国 「逆切れ」する韓国』『日本と韓国は「米中代理戦争」を闘う』 『「三面楚歌」にようやく気づいた韓国』『「独り相撲」で転げ落ちた韓国』『「中国の尻馬」にしがみつく韓国』『米中抗争の「捨て駒」にされる韓国』 に続く待望のシリーズ第9弾。10月25日発行。