こうした地道な取り組みの結果、「東京大関連ベンチャー企業が250社以上、その中でIPO(新株上場)した企業が17社となり、東京大周辺にはベンチャー企業を育成する“エコシステム”がつくられつつあると考えられている」と、筧協創推進部長は説明する。ただし、“東京大関連ベンチャー企業”と“東京大発ベンチャー企業”は、それぞれ定義がいくらか異なっている点に注意が必要だが、一般論としては多くの東京大発ベンチャー企業が創業していると考えられている。

 筧協創推進部長は「東京大周辺にはベンチャー企業を育成する“エコシステム”はまだ発展途上であり、東京大学協創プラットフォーム開発もアントレプレナー道場を実施している産学協創推進本部などの3者に協力して、この“エコシステム”を強化していく」と説明する。

 同様に、日本の大学の中で起業家教育を進めている先進大学は大阪大だ。大阪大は「G-TEC」という名称のプログラムで、起業家教育を実施している。大阪大の学生・教員だけではなく、“一般枠”として企業の方も対象に、企業内アントレプレナー教育も進めている。

 東京大学協創プラットフォーム開発は、「協創プラットフォーム開発1号ファンド」に続く「協創プラットフォーム開発2号ファンド」を数年後に設ける計画を進めている。この「協創プラットフォーム開発2号ファンド」は、東京大との共同研究などを基にした企業の新規事業を“切り出す”カーブアウト型ベンチャー企業に投資する予定だ。そのためには、企業内で新規事業・新規企業を立ち上げる企業内アントレプレナーの育成も重要になっている。

 こうした人材育成の必要性を踏まえ、文部科学省は平成29年度から、イノベーションを創出するアントレプレナー(起業家)を育成するプログラムとして「次世代アントレプレナー育成プログラム」(EDGE・NEXT)を始める計画だ。この新規施策の要求額は平成29年度単年度で7億円である。10大学の採用を計画している。大学発ベンチャー企業を起業する人材に加えて、企業内で新規事業を始める外部との連携態勢を築ける起業家人材などを育成する計画である。

成功への期待を議論

 日本ベンチャー学会のパネルディスカッション「大学発ベンチャー企業の機能と支援」に登壇した実務者4人に対して、会場内の学会員から出た質問では、政府が合計1000億円を東京大、京都大、大阪大、東北大の4国立大に出資して設けた各ベンチャーキャピタル4社が成功するのかどうかに当然、関心が集まり、それを尋ねる質問となった。

 この会場からの厳しい質問に対して、東北大学ベンチャーパートナーズの樋口取締役は「必ず投資事業を黒字化し成功して、当社を存続させ、ベンチャーキャピタルとして自立する覚悟としか、今は申し上げられない」と答えた。

 大阪大学ベンチャーキャピタルの勝本執行役員も「弊社への第1号投資ファンドの出資者には、ポートフォリオを提示し、今後の計画を示しているが、この中身は当然公表できない」という。言外には、厳しい金融機関系出資者の実務者を納得させるポートフォリオを提示していると語っている様子だった。

 京都大学イノベーションキャピタルの楠美執行役員も「事業計画データでお見せできないので、頑張りますとしかいえない」と苦笑する。

 同パネルディスカッションのコーディネーターを務めたバイオフロンティアパートナーズの大滝義博代表取締役社長は「国立大学系ベンチャーキャピタル4社の投資実行を今後も見守り、しっかり分析していきたい」と、今後も学会として分析していく姿勢をみせた。

 そして、「2000年ごろには、日本の大学の研究成果を基に、大学発ベンチャー企業を創業する制度や態勢がまったく整っていなかったことを考えると、やっとここまで来たというのが率直な感想」と、まとめた。

丸山 正明(まるやま・まさあき)

技術ジャーナリスト。元・日経BP産学連携事務局プロデューサー
東京工業大学大学院非常勤講師を経て、現在、横浜市立大学大学院非常勤講師、経済産業省や新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、産業技術総合研究所の事業評価委員など。