社長・CEO人材探しに苦労

大阪大学ベンチャーキャピタルの勝本執行役員経営企画部長
大阪大学ベンチャーキャピタルの勝本執行役員経営企画部長

 「成功のカギは経営者人材の確保」との意見は、大阪大学の100%子会社である大阪大学ベンチャーキャピタル(大阪府吹田市)の勝本賢治執行役員経営企画部長が簡潔に説明した。同社は、2015年7月31日にOUVC1号投資事業有限責任組合という第1号ファンドをつくり、2016年9月までに投資第1号のマイクロ波化学(大阪府吹田市)をはじめとする9社に投資済みだ。現時点では、4国立大学の100%子会社であるVCの中では、同社は投資実績数が一番多い。「現時点ではさらに、今後の投資先企業として3社がほぼ決まっている」という。

 その大阪大学ベンチャーキャピタルは、さらに投資先となる“大阪大発ベンチャー企業”候補の仕込みの真っ最中である。これまでの経験から、一番難しい人材探しは「やはり社長人材だ」と、勝本執行役員はいう。「例えば、大学発ベンチャー企業のCFO(最高財務責任者)などは金融機関やベンチャーキャピタルなどの優れた実務者の中から探しだすことは簡単ではないがなんとかできる。しかし、大学発ベンチャー企業の社長・CEO(最高経営責任者)候補となると、なかなかお眼鏡にかなう人材はいないのが実情だ」という。

 日本では、ベンチャー企業を創業さて成功させた経営者人材の層がまだ薄く、その創業時に育った若手経営陣層も少ないために、次の新規ベンチャー企業の創業に乗り出す人材が極めて少ないからだ。研究開発も事業化も財務などもと多岐にわたって創業時に分かる人材はほとんどいないからである。

京都大学イノベーションキャピタルの楠美公執行役員投資部長
京都大学イノベーションキャピタルの楠美公執行役員投資部長

 この点は、京都大学の100%子会社である京都大学イノベーションキャピタル(京都市)の楠美公執行役員投資部長も「社長・CEOなどの経営者人材探しに苦労する点でまったく同感だ」という。同社は2016年9月時点で、AFIテクノロジー(京都市)など4社に投資済みである。「京都大というと、多くの方はiPS細胞系などの創薬や診断薬、医療機械などの広義のライフサイエンス系京大発ベンチャー企業への投資が中心になるとみる方が多いが、実際には約半数は非ライフサイエンス系の京大発ベンチャー企業になる見通しだ」と説明した。

 京都大学イノベーションキャピタルは、9月30日にはWebサービスの語学学習事業を手がけるLang-8(東京都渋谷区)に投資し、ライフサイエンス以外の人工知能(AI)やIoT(もののインターネット)などの分野に投資を始めた。まだ、投資を公表していないが「次の投資先も非ライフサイエンス系だ」という。投資先候補の京大学発ベンチャー企業が多分野にわたるために、「その経営者候補を探す点では、同様に苦労している」と説明する。

東京大はアントレプレナー道場という起業家育成を推進

 東京大学の100%子会社である東京大学協創プラットフォーム開発(東京都文京区)は、約230億円と巨額の投資ファンド「協創プラットフォーム開発1号ファンド」の成立がやや遅れており、2017年早々に成立する見通しだ。その一方で、ベンチャー企業の経営者などを育成するアントレプレナー(起業家)教育では、東京大は日本の大学の先頭を走っている。環境としては、東京大学発ベンチャー企業を育成する環境は整っているといえる。

東京大学協創プラットフォーム開発の筧一彦協創推進部長
東京大学協創プラットフォーム開発の筧一彦協創推進部長

 東京大学協創プラットフォーム開発の筧一彦協創推進部長は、「東京大はアントレプレナー道場という起業家教育を既に12期にわたって実施してきた」と説明する。東京大が2004年の国立大学法人化時に設けた産学連携本部(現在の産学協創推進本部)は、東京大学TLO(東京都文京区)と、ベンチャーキャピタルとしての東京大学エッジキャピタル(UTEC、東京都文京区)と連携して、若手起業家人材を育てるアントレプレナー道場を継続して実践してきた。この中からは、実際にいくつかの東京大発ベンチャー企業が誕生し、そのベンチャー企業の経営者がアントレプレナー道場の講師などを務める好循環が産まれている。

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