水深600mの深層水を活用

 海洋深層水には、ウイルスや細菌などがほとんど含まれない。カキの産卵から直径約5mm~4cmの稚貝、そして同6cm以上の成貝に育てるまで、全てのプロセスで海洋深層水を使えば、ウイルスに汚染されることはない。

 沖縄県では産業振興を目的に久米島の水深約600mの海底にパイプを設置。2000年から海洋深層水のくみ上げを始め、希望する企業に有償で提供している。そこで吉田社長は2012年に久米島の陸上に養殖実験プラントを立ち上げ、研究開発に乗り出した。

 課題はカキの「餌」だった。カキを大きく育てるには、大量の植物プランクトンを継続的に与える必要がある。ところが、日光が届かない深海では植物プランクトンが育たないのだ。

 そこで着手したのが、くみ上げた海洋深層水の中で植物プランクトンを大量に培養する技術の開発だった。海洋深層水には植物の成長に必要な窒素やリンといった栄養分が多く含まれる。光の強さや水温などを変えて、植物プランクトンの光合成を促進し、急速に培養する技術を確立した。

 ゼネラル・オイスター子会社で養殖プラントを運営するジーオー・ファーム(沖縄県久米島町)の鷲足恭子社長は「海洋深層水1ミリリットル当たりの植物プランクトンの数を、1週間で200万匹程度に増やせるようになった」と話す。

 植物プランクトンの量をただ増やせばいいというわけではない。未消化の餌は水の汚染につながる。鷲足社長はカキの排せつ物を詳細に分析、最適な餌の量と組み合わせも突き止めた。カキは成長段階によって好むプランクトンの種類も変わる。「カキの成長を促進する餌の大量培養技術は、簡単にはまねできない」と鷲足社長は胸を張る。

 カキは通常、出荷までに2年を要するが、これを1年以内に短縮して生産コストを下げるのが目標だ。吉田社長は「2020年に年数百万個を出荷できる養殖設備にしたい」と意気込む。

 陸上での魚介類の養殖に挑むのはゼネラル・オイスターだけではない。工業用バルブ大手のキッツは、海から100km以上離れた長野県茅野市でマダイやマハタの養殖に取り組んでいる。バルブ工場の敷地内に昨年、独自開発した陸上養殖システムを設置した。

山間部のバルブ工場敷地内で、マダイ約1400匹がいけすを元気に泳ぎ回る
●キッツが開発した閉鎖循環型の陸上養殖システム

 いけすを使った海上養殖では赤潮や台風などの自然災害、水質汚染によって魚介類が被害に遭う恐れがある。陸上養殖ではこうしたリスクを回避し安定生産できるうえ、水温や日照時間の調整などで育成期間の短縮も可能。技術革新によって工夫できる余地が、大きく残されているのだ。

 活魚の場合、価格の大部分を占めるのが陸上における輸送費だ。売値が浜値の5倍に上るケースも少なくない。「大都市近郊で陸上養殖を手掛ければ、海上養殖よりも安く、消費者に魚を届けられる。飲食店が入るビルの地下でもいい。地方空港の近くだったら海外にも輸出できる。水産業の概念が大きく変わることになる」。キッツの岡田毅史・事業開発部長は、陸上養殖に乗り出した狙いをこう語る。

 きっかけは4年前。陸上養殖業者が、魚の排せつ物に含まれるアンモニアの処理に悩んでいると聞いたことだった。水槽内にアンモニアが増えると、病原菌の発生リスクが高まる。一方、バクテリアを使った従来型の生物処理では、バクテリアだけでなく、有害な他の細菌も増殖する恐れがある。ここで、キッツが培ってきた水浄化技術を応用できないかと考えた。

 岡田氏は有毒物質を排出せずに化学的にアンモニアを分解し、同時に水槽内を脱臭・殺菌する装置を開発。特許を取得した。さらに、魚が空腹になるタイミングで自動的に給餌する装置や、水中の酸素量などを管理する仕組みなども考案。成魚まで陸上で一貫して養殖できるシステムを作り上げた。

 最大の特徴はコンパクトさだ。陸上養殖システムはビルの一室にも設置できる大きさ。キッツは、実際に魚を育てながら養殖の知見を蓄積している。今後は水槽の大きさや水浄化装置の数など、魚種ごとに特化したシステムを開発する計画。早期に年20億円の売り上げを目指す。