微弱振動や速い減光も効果的

 睡眠障害を「モノ」で改善する研究もある。東京工業大学の伊能教夫教授が取り組むのが振動ベッドの研究だ。

 「あれ? この路線のこの場所に差し掛かると、いつも子供が寝るなあ」。伊能教授は子供を連れて電車に乗っていた時にふと、こんなことに気付いた。

微弱な振動で眠気を誘う
●東工大・伊能教授による振動ベッドの実験
寝たかどうかを脳波で確認し、振動ベッドの効果を検証した(写真=伊能 教夫)
ベッドの下に設けた駆動装置が細かい振動を生み出す

 伊能教授は9路線の電車に繰り返し乗って振動を比較し、その電車内で実際に寝ている人の割合などを調査した。その結果、「人は1秒間に1回程度の振動を受け続けると眠気を催す」という推論に至った。

 この推論を生かして試作品の振動ベッドを開発。ベッド下部に設けた駆動装置が動くことで、数mmの幅でベッドを上下左右に振動させる。計測実験では被験者にベッドに横になってもらい、振動を発生させたままどれくらいの時間で眠りに落ちるのかを調べた。すると、普段よりも5分程度早く眠りに落ちることと、微弱な振動の方が効果的だということが分かった。

 伊能教授は装置の簡素化を目指して研究を続けており、実用化した際には、長距離ドライバーや看護師など交代制勤務で仮眠を取る必要のある職場での利用を見込んでいるという。

 睡眠には光も大きく影響している。太陽のような強い光を浴びると目を覚ます作用があるが、逆にどういう光の落とし方をしたら眠気を催しやすいのか──。そんな研究を進めるのが、早稲田大学の岡野俊行教授だ。

光の落とし方を工夫して眠気を誘う
●光量変化の実験装置
早稲田大学の岡野俊行教授は、照明機器への応用を目指して研究を進める

 岡野教授はオムロンヘルスケアなどと組み、基礎研究を進めてきた。人は暗闇の状態でいると脳内でメラトニンという物質が分泌され、眠くなることが分かっている。問題は、どうやって明かりを落としていけば、より眠りやすくなるか、ということだ。

 まず一般的な寝室の照明と同程度の明るさ(70ルクス)の部屋を用意。健康な人にこの部屋で過ごしてもらい、3パターンの光量変化を起こしてどれが一番眠りを誘うかを調べた。①光量を変化させない②光量を50ルクス程度に落として維持する③光量を10秒程度で35ルクスまで落としてから、1分程度かけて70ルクスに戻すのを繰り返す──の3つだ。今年の学会で3番目が最も眠気を誘うと発表。照明機器などの事業化に向けて研究を続ける。

 日本人の睡眠時間は短い。経済協力開発機構(OECD)の2014年の調査では、加盟国中で最下位の韓国に次ぐ短さ(平均7時間43分)だった。日々ストレスにさらされる現代人にとって、質の高い睡眠時間の確保は文字通り死活問題。企業も労働環境の改善と生産性向上を目指しており、睡眠の質向上はその実現のカギを握る。

(日経ビジネス2016年10月17日号より転載)