上野社長が注目したのは、薬を使わない「認知行動療法」という治療法だ。認知、つまり現実の受け取り方や物事の見方などに働きかけ、患者のストレスを軽減する。欧米などでは広く普及しているほか、日本ではうつ病の治療法として保険適用となっている。

 ただ、この治療法は医師の元に頻繁に通う必要があるうえ、現時点では不眠症の治療法として保険を適用できない。1回の治療に1万円程度の治療費がかかり、患者の負担になっていた。

 「認知行動療法をアプリ上で再現できれば、少ない医師でも多くの患者をカバーできると考えた。患者にとっては通院の負担とコストを削減できる」。上野社長は2015年7月に起業した理由をこう語る。その後ディー・エヌ・エー(DeNA)と住友商事が共同出資したDeSCヘルスケア(東京都渋谷区)と組んでアプリを開発。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援を受け、実用化に向けて開発を進める。

アプリが医師の代わりに

 サスメドが想定するサービスの概要はこうだ。まず医師が医薬品と同じように患者にアプリを“処方”する。患者はアプリに、ベッドに入る前の行動や不安に感じている事柄、ベッドに入った時間などを記録する。アプリにはあらかじめ、医師が監修した対応策が登録されている。患者の記録内容を基にアプリは、その患者にふさわしい対応策を自動的に選び出して通知する。

 例えば、早く寝ようと夕方からベッドに横になっていた患者がいたとする。ベッドに入ってもなかなか寝付けないことがストレスとなり、逆に目がさえて眠れなくなっていた。こうした患者にはアプリが、「3時間程度、ベッドに入る時間を遅らせて」と助言する。

 携帯機器アプリを活用した事例は他にもある。帝人の傘下で睡眠関連サービスを手掛けるベンチャー、ねむログ(東京都千代田区)は、アプリと組み合わせて使うウエアラブル機器「ツーブリーズ」(税別2万円)を販売している。開発したのはイスラエルのベンチャー、ツーブリーズ・テクノロジーだ。

 機器はもともと、高血圧の治療機器として米食品医薬品局(FDA)の承認を得た商品だった。センサーのついた伸縮性のあるベルトを腹部に巻くと、呼吸による腹部の動きを感知。そのデータが有線で音響機器に伝わり、正しい呼吸を誘導するための音楽を流す。例えば、ユーザーが早くて浅い呼吸をしていたら、ゆっくりと息を吸ったり吐いたりできるようにテンポの遅い音楽を流してくれる。

 深呼吸を繰り返すと副交感神経が優位になってリラックスし、全身の毛細血管が開くという。そうすることで血圧を下げるのが本来の目的だったが、思わぬ「副作用」があった。深く長い呼吸を繰り返すうちに、利用者が次々と眠りに落ちていったのだ。

 ツーブリーズ社はここに目を付け、データを無線でiPhoneやiPadに送れるように改良した商品を作った。これをねむログが輸入して3月から販売している。なお、日本で医療機器の認可を得ていないため睡眠改善の効果を直接的に訴えることはできないが、「仕事の合間や昼休みなどのちょっとした時間にリラックスする効果を望める」(ねむログの濱崎洋一郎・代表取締役)。

深呼吸しやすいよう音でガイドする
●「ツーブリーズ」の使用イメージ
使用者が眠ってしまい、音のガイドに従わない呼吸を繰り返すと自動で電源が切れる