「契約書」を交わすよりも、「血判状」に拇印という感じ

衛星を使って何をしようとしていたのですか。

中村:衛星から撮影した画像を基に、北極海を渡る世界の海運会社に、海氷の分布状況を知らせるナビゲーションサービスを提供することを検討していたのです。最近、地球温暖化の影響で北極海周辺の氷が溶け、船が通れるようになってきています。日本からヨーロッパへと運航する際、これまではマラッカ海峡・スエズ運河を通るルートが一般的でしたが、北極海を渡るルートにすると距離が3分の2に縮まります。燃料代も人件費も安くなって輸送コストが1000万円ぐらい削減できると言われています。ただ、北極海には大小様々な氷の塊が浮かんでいます。安全に渡るために氷の分布状況の情報が必要でした。

北極海の氷の分布状況の情報を得ることを目的として、ウェザーニューズとタッグを組んだ。写真はイメージ(写真:staphy/123RF)

「お客が見つからなかったら起業は止めよう」と考えていた中村さんが、衛星を使って新たなビジネスを手掛けようとしていたウェザーニューズと出会った。なんだか運命的なものも感じます。

中村:そうなんです。我々からしたら、衛星を持つ可能性を検討している会社自体、出会うのは初めてです。「このチャンスを逃してはならない」と必死でした。どういう衛星ならば条件に合うかとディスカッションを重ね、半年ぐらいで「よし、やろう」とゴーサインを出していただきました。

 当時、ウェザーニューズは創業者の石橋博良さんが代表取締役会長でした。石橋さん自身、様々な規制と戦いながら気象情報に新たな価値を生み出し、世界最大の民間気象情報サービス会社に育て上げた方です。国が取り仕切ってきた宇宙開発の分野で、民間の立場から新しい切り口でビジネスを生み出そうとしている我々の思いを受け止め、共感してくださいました。「我々は受注者と発注者という関係ではない。新しい価値を共に作り上げていく同志だ」とおっしゃって。

 石橋さんのような強いリーダーシップを持ってトップダウンで決断してくださる企業と出会えたのは本当に幸運でした。本来なら衛星をつくるのには細かい取り決めが満載の契約書が必要ですが、我々が結んだのはすごくシンプルなものでした。言わば、「ごちゃごちゃ言わず、とにかくやるぞ!」と血判状に拇印を押すというような感じ(笑)。そんな形でプロジェクトが始まりました。ウェザーニューズというお客様が現れたことを受けて、2008年8月にアクセルスペースを創業しました。