打ち上げた衛星のカメラで地球の写真を撮っていた

「社会の役に立てたい」という言葉が何度も出てきますが、中村さんはもともと社会への還元とか、貢献という意識が強かったのですか。

中村:考えてみると、それも衛星プロジェクトに携わっている間に生まれたものかもしれません。私は最初の衛星プロジェクトで、カメラ開発を担当していました。打ち上げた後、うまくいくとすごくきれいな写真が撮れるはずなんです。せっかく撮った地球の写真を大学内の自分たちだけで「きれいだね」と眺めているのはもったいない。外部の人にもぜひ見てほしいと思い、プロジェクトマネージャに許可を取って、登録してくれた人に画像を配信するようなシステムの開発をひとりで始めました。

 最終的には3000人を超える人が登録してくれました。画像が撮れるようになるまでしばらくかかったのですが、美しい地球が写るようになって、配信を開始したんです。そうしたら、「すごくきれいですね」「ありがとう」とたくさんフィードバックをもらって。ささやかなことだけれど、自分たちがつくったものが社会の中で喜んでもらえたことに、すごく満足感を得られました。この時の経験も、自分が研究してきた超小型衛星を社会の役に立つものにしたいと考えるようになったきっかけになった気がします。

それで超小型衛星を開発する企業を立ち上げようと、準備を始めたのですか。

中村:いえいえ、超小型衛星の開発を自分の仕事にしたいという思いは芽生えたものの、起業するなんて全く頭にありませんでした。選択肢として思いつきもしなかった。今でこそ、大学でもアントレプレナー教育などを行っていますが、当時はそういうことに触れる機会もなかったので。

 当時は、どこかの企業に入って、超小型衛星の開発を続けることをイメージしていました。どの企業に就職すれば、それが可能なのだろうとリサーチして…。ところが、やりたいことができる企業がどこにもなかったんです。日本には超小型衛星をビジネスとして手掛ける企業は全くなかったし、アメリカでも、衛星をつくる企業や大学に対して必要な機器を売ったり、打ち上げをアレンジしたりするサービスを提供する企業があるだけ。「衛星を使いたい」という企業に対してサービスを提供する企業がありませんでした。

 「どうしようかな」と思っていた時、研究室の先生が科学技術振興機構(JST)から大学発ベンチャー支援の助成金を獲得したという話を聞きました。そこで「そうか、ベンチャー企業をつくればやりたいビジネスができるのか」とはたと気づいたんです。起業も会社経営も全く知識のないまま、「会社をつくればいいんだ」とピュアに考えた。それで先生に頼んでプロジェクトに入れてもらい起業準備を始めました。

知識がないまま起業して良かった

研究として取り組んでいた超小型衛星をビジネスにしたいと思ったのも、衛星ビジネスを手掛けるために会社をつくろうと思ったのも、実にストレートですね。まさにピュアという言葉がぴったりです。

中村:振り返ってみると、私の場合は、知識がないまま起業して良かったと思いますね。ベンチャーを興そうという時には、事前に経営の勉強をしたり、MBA(経営学修士)を取ったりする人も多いのでしょうけれど、そのプロセスを通っていたら、宇宙ビジネスなんてリスクが大きすぎて、とても乗り出せなかったと思います。技術者として、純粋に「超小型衛星を社会の役に立つものにしたい」という思いを持っていたところに、ふと起業という選択肢が現れた。それに迷わず飛びついたから、今があるのだと思います。

 創業メンバーのうち、起業準備中にフルタイムでかかわっていたのは私だけということもあって、だれが代表をやるのか、という話になったとき、「やらせてほしい」と立候補しました。そうしてすんなり決まってしまったのですが、代表になることがどれだけ大変かなんて、当時はあまり考えませんでした。

アクセルスペース・中村友哉 代表取締役も登場
InovatorNext 未来を創る東大工学部

 東京大学工学部・大学院工学系研究科は、社会の複雑な課題を解決し、変革をもたらし、未来を切り拓くイノベーターたちを輩出し続けています。
 なぜ、それが可能なのか。日本を代表する企業の経営者、先進的な分野に挑む起業家、存在感が増し続けている女子学生・卒業生など、卒業生や学生へのインタビューによって、その秘密に迫るとともに、全16学科が取り組む具体的な研究・教育の特長をわかりやすく紹介します。

日経BP社(著)/東京大学 大学院工学系研究科・工学部 広報室(監修)/1080円(税込)