学生の手による衛星の打ち上げが成功したのは世界初

そうして心血を注いで開発した衛星は打ち上げに成功したのですか。

中村:ええ、手のひらにのるぐらい小さなものではありますが、それら東大・東工大の衛星は2003年に一緒にロシアのロケットで打ち上げられ、成功しました。学生の手による衛星の打ち上げが成功したのは世界で初めてのことです。当時、学生手作りの超小型衛星開発に取り組んでいたのは日本に加えてアメリカ、カナダ、デンマークの4カ国で、全部で10基ほどの衛星が打ち上げられたのですが、軌道上で予定通り動いて信号を送ってきたのは東大と東工大の衛星だけでした。

 この2つの大学はともに超小型衛星開発に挑戦する仲間でもあり、同時に「相手よりいいものをつくってやろう」と意気込むライバルでもあり、その関係がモチベーションを高く保つことに役立ったと思っています。学生って授業もあるしテストもゼミもバイトもあって結構忙しい。衛星開発には1年、2年とかかりますから、その間、モチベーションを維持するのはなかなか大変なんです。でもいい意味でライバル心があったから、定期的な合同ミーティングの場で進捗状況を報告する時に、相手より先んじていようと思えた。それは大きかったと思います。

「頑張れば社会の役に立てるものがつくれる」と感じた

大学の研究テーマとして取り組んでいた超小型衛星開発ですが、どの辺りからビジネスにしたいと思い始めたのですか。

中村:研究室にいる間に3基の超小型衛星の開発にかかわったのですが、その間、急速な技術の進歩を実感したことが、ビジネスを意識するきっかけとなりました。

 2003年に打ち上げた1基目の衛星は重さ1kg。カメラを搭載していましたが、当時の携帯電話向けカメラモジュールをホビー用途に改良したおまけみたいなもので、解像度はQVGA(320x240ピクセル)しかなく、地球の縁が丸く写るような広角の画像が撮れるものでした。その後、最初の頃に開発にかかわった3基目の衛星は8kgの重量になり、専用の望遠鏡を搭載できるまでになりました。地上の物体をどれぐらいの大きさまで見分けることができるかを示す衛星画像の地上分解能は30m。この地上分解能の点だけでいうと、NASA(米航空宇宙局)の地球観測衛星LandSat(ランドサット)と同程度になったんです。もちろん、画質などの面では実用にはまだほど遠いものでしたが、自分たちの衛星で都市の姿がはっきり見えたのには興奮しました。

 学生がつくる10kgに満たない衛星でここまで実現できるぐらいに技術レベルが上がった。「もうちょっと頑張れば、社会の役に立てるようなものがつくれる」と感じました。超小型衛星の分野では我々がパイオニアであるという自負もあり、これをビジネスにできるのは我々だけじゃないかという思いが芽生えました。

 実は東大の中では航空宇宙工学科って優秀な学生が集まる学科なんです。だから宇宙や航空に興味がある学生ばかりが集まっているというわけではなく、1、2年生の時の成績が優秀で、レベルが高いからというだけで進学してくる学生も多い。だからなのか、卒業後は多くが宇宙業界で仕事をしているかというとそうでもなく、意外と中央省庁とか金融とかコンサル会社とかに行く人が多いんですね。

 けれど、自分としては大学発の衛星開発というめったにないプロジェクトを経験させてもらったのに、卒業する時に「ああ、面白かった」で終わらせて、全く違う業界で仕事をするというのは考えられなかった。このまま超小型衛星の開発を続けて、この技術を誰かに使ってほしい、社会の役に立てたいという思いが強くなりました。

2013年打ち上げのWNISAT-1で獲得した技術を継承・発展させ、アクセルスペースとウェザーニューズが共同で開発した人工衛星「WNISAT-1R」。北極海域の海氷の観測を主な目的とした質量43kgの超小型衛星。(アクセルスペースのウェブページから)
2013年打ち上げのWNISAT-1で獲得した技術を継承・発展させ、アクセルスペースとウェザーニューズが共同で開発した人工衛星「WNISAT-1R」。北極海域の海氷の観測を主な目的とした質量43kgの超小型衛星。(アクセルスペースのウェブページから)

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