コンビニ業界で動いたのが、最大手のセブンイレブンだ。9月末から東京都内10店舗のコンビニで、顔認証技術の実証実験を始めている。店舗のバックヤードにある「ストア・コンピュータ」という管理端末に、オーナーと一部の従業員の顔を登録。機密性の高い情報には特定の人物しかアクセスできない仕組みを整えて、セキュリティーを高めるのが狙いだ。

複雑なパスワードは不要
●顔認証が使用されている例
<span class="fontP">複雑なパスワードは不要<br />●顔認証が使用されている例</span>
様々な場面で使われ始めた。出入国管理の写真は、2014年の実証実験の様子

 ストア・コンピュータは発注状況や売り上げ、顧客情報や従業員の給与などを管理する、いわば「店舗システムの心臓」だ。最近ではインターネット通販の荷物受け取りや公共料金の支払いなどのサービスが拡大し、さらなるセキュリティー向上が求められるようになってきた。セブンイレブンでは従来、IDとパスワードを使って管理端末にログインしていたが、情報漏洩リスクや入力の煩雑さが課題になっていた。

 セブンイレブンはNECと共同で顔認証技術の使い勝手を検証し、2018年春をめどに全国1万9600店舗のシステムを刷新する。レジ端末の更新なども含めて、520億円を投じる計画だ。

 より身近なところでは、住居の「鍵」として普及しそうだ。レオパレス21は今年7月、東京・南麻布に竣工した賃貸マンションにNECの顔認証技術を導入した。居住者がマンションのエントランスに埋め込まれたカメラに顔を近づけると、オートロックが解錠されてドアが開く仕組みだ。商品技術統括部の大木宏樹設計課長は、「顔認証の導入コストは、物件全体のコストに比べれば微々たるもの。高級住宅地ではセキュリティーを気にする居住者が多いので、顔認証は売りになる」と話す。

羽田空港の帰国審査に導入

 競合も市場開拓を急ぐ。法務省は10月から、羽田空港に帰国する日本人の審査で顔認証技術を導入する。採用したのはパナソニック製のシステムだ。日本人の帰国審査を自動化することで、急増する訪日外国人の入国審査に人員を回せるようになるという。18年度には、成田空港など国内主要空港にも拡大する予定だ。

 アップルに加え、米マイクロソフトや米フェイスブックなども顔認証技術の開発を強化する。なりすましを防止できれば、パソコンやSNS(交流サイト)の使い方は大きく変容する。個人間の決済サービスなど、新たな市場が創出できる可能性も秘めている。

 ただし、現時点の顔認証技術には課題もある。「非積極認証」への対応だ。

 利用者がカメラの前に立ち止まり、撮影に「積極的」に協力してくれる環境では、ほぼ100%の確率で本人かどうかを識別できるようになった。一方で、防犯カメラに映った不特定多数の中から特定の人物を見つけるといったケースは非積極認証と呼ばれ、改良の余地が大きい。ポイントは3つある。

群衆の中から特定の人物を検出
●非積極認証の課題
<span class="fontP">群衆の中から特定の人物を検出<br />●非積極認証の課題</span>
横向きの顔や遠く離れた顔をどう識別するかや、複数人の同時認証など、課題はまだ多くある
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 1つ目は、下向きや横向きの顔を確実に認証すること。出入国管理ゲートなどに設置された顔認証システムとは異なり、防犯カメラを正面から見据える人は珍しい。マスクを着用していたり、人の陰に入ったりして顔の一部しか見えないこともある。そうした状況で認証精度を高めるには、検出する特徴点を工夫する必要がある。

 2つ目は高速化。コンサート会場など多くの人が集まる場所で複数の顔を瞬時に識別する場合、ハードとソフトの処理速度が課題になる。AI(人工知能)の活用が競争を左右しそうだ。3つ目は、カメラから遠く離れた人への対応だ。解像度が低い画像でも確実に認証できるかどうかが焦点になる。

 20年の東京五輪を控え、テロ対策は喫緊の課題になっている。街中に防犯カメラを設置したとしても、映像から適切な情報を抽出できなければ、次の行動に移せない。個人を特定する「顔」をどう扱うのか。顔認証技術の進展はスマートフォンとの“向き合い方”だけでなく、社会全体を大きく変えていきそうだ。