京都の石庭で悟った料理の本質
「冷製」ブリ大根で別の味わいの世界を開く

ジョシュ・ディケリスさん(米国)
ジョシュ・ディケリスさん(米国)

 高校時代、スノーボードを買うお金を工面するため、アメリカの地元ニュージャージーの小さなレストランでアルバイトをしたことが、ジョシュ・ディケリスさんが料理に目覚めたきっかけだ。そして、アメリカ屈指の料理大学であるカリナリー・インスティテュート・オブ・アメリカで料理を学んだ後、20代前半でサンフランシスコに移り住んだことで、今度は和食に目覚めることになる。

 サンフランシスコでは、オーストリア生まれの有名シェフ、ウルフギャング・パック氏の店「ポストリオ」でスーシェフとして働いていたが、ある日デート相手の女の子と一緒に、彼女が働いていた寿司店を訪れ、衝撃を受ける。東海岸で食べたことがあった、「いい加減なロール寿司」などとはまったく異なる、別の食べ物だったからだ。お米も魚も素晴らしく、本物の出汁を使った料理に引き込まれ、「和食についてもっと勉強したいと思うようになった」と言う。

 パリのミシュラン三ツ星レストラン「アルページュ」やニューヨークの「ユニオン・パシフィック」などでの経験を経たディケリスさんの大きなキャリアの転換は2003年、日本の人気アーティスト、ドリーム・カム・トゥルーがニューヨークにレストラン「スミレ」をオープンするにあたり、同店のシェフとして働くことになったことで訪れる。レストラン開店前に長期にわたり日本に滞在し、東京・渋谷の店で和食の経験を積み、さまざまな店を食べ歩くことなどで和の料理や食材、調味料について徹底的に学んだのだ。

 そして、ある日訪れた京都の寺の石庭で、ディケリスさんは“啓示”を受ける。「石庭を眺めていたら、木々が庭を囲む塀の内側に枝を伸ばし、見事に自然と人の手によって作られた石庭が共存していた。それを見て料理とは、いくつものソースを重ねて素材の味を分からなくするなど料理人の主張ばかりが全面に押し出されるべきものではなく、素材を料理人がどう引き立てることができるかが大事なのだと悟った」。

「茹でた大根と寒ブリ」
「茹でた大根と寒ブリ」

 「和食ワールドチャレンジ 2016」出品料理は、「茹でた大根と寒ブリ」。伝統的な冬の料理であるブリ大根に着想を得た一品だ。本来は温かい料理であるブリ大根の素材を使いながら、ディケリスさんはこれを冷製料理に仕立てた。ブリは、頭、カマ、頬肉も使いこれらを軽くたたき、しっかりと煮汁を含ませてから冷やしたダイコンと合わせた。懐かしさを感じる一方で、冷製であることや、合せて用いたユズ果汁の酸味やおろしショウガの刺激で、まったく別の味の世界が開けるよう考えた。

 17年1月には、元銀行だった建物を改装、ニュージャージーに、初めてオーナーシェフとしてレストランを開業する予定だ。「最高の食材を使い、どんな枠にもとらわれない料理を提供していきたい」と言うディケリスさんの声には、自分の行く道に迷いのない力強さがあった。

※メディアでご関心のある方は、「和食ワールドチャレンジ2016」のホームページ(こちら)からお問い合わせください。本イベントでは一般観戦は募集しておりません。ご了承ください。