現在は、コンサルティングシェフ(店の立ち上げのコンサルティングなどを受け負うシェフ)としてさまざまなプロジェクトに関わるエンペラーさんだが、夢は自分自身がオーナーであるレストランを開くこと。和食をベースとしながらも中国で仕事をした経験なども生かし、自分の人生経験を余すことなく反映した店をイメージしているという。

技術よりも大切にする「お客様への真心」
日本人客からもらった最高の賛辞

チョン・チェン・ロンさん(マレーシア)
チョン・チェン・ロンさん(マレーシア)

 マレーシアの首都クアラルンプールには、20年ほど前から日本料理店ができはじめた。全く文化の異なる日本の料理は若者にとって魅力的で、チョン・チェン・ロンさんは高校を卒業してから約半年間、昼間学校でホテルマネジメントの勉強をしながら、日本料理店で働いたという。最初に口にした和食は、その頃に食べたしょうゆラーメン。煮卵のおいしさが特に印象に残った。マレーシアの華僑であるチョンさんは、中華の麺料理とは異なる繊細さに目を見張り、その調理法に興味を引かれた。

 現在、彼が勤めるのは2014年にクアラルンプールにオープンした「寿司 織部」。それまでに、高級ショッピングモールであるスターヒルギャラリー内の店をはじめ、数店の日本料理店で鉄板焼きや寿司、天ぷら、会席料理などを学んできた。「和食の魅力は、新鮮な食材の良さを最大限に引き出しているところだ」と語るチョンさん。特に会席料理の美しさに心を奪われた。また、料理は「目で楽しむ」ものであり、器の美しさも大切であることも、和食ならではのこだわりだと感じた。

 「寿司 織部」では主人の折付秀明さんから、日本料理に対する情熱や最高のおもてなしをするための食材の選び方、料理の技を学んだ。そして、「何よりも大切なのは『料理の技よりも、料理を通してお客様に真心を伝えることだ』と折付さんに教えられた」と話す。

 お客の要求にいかにして答えるか、折付さんは厳しくチョンさんを指導した。ある日、なじみの日本客がランチ時に握り寿司をおまかせでオーダーした際、彼が考えて出した組み合わせを「僕の好みをよく分かっているね」と言ってくれたこと――それが、うれしい記憶として今もチョンさんの心に刻まれている。

「アカムツのけんちん焼き」
「アカムツのけんちん焼き」

 「和食ワールドチャレンジ2016」への出品料理は、「アカムツのけんちん焼き」。けんちん焼きとは、豆腐や野菜を白身魚などで包み焼いた料理のことだ。このメニューを選んだのは、外国人がよく知る天ぷら、すき焼き、丼物ではない料理を作りたかったから。また、伝統的な料理であるにもかかわらず、普通の煮物のようにありきたりではないこともポイントとなった。けんちん焼きには、彩りや食感にバラエティを持たせることを意識して、枝豆の天ぷらや芯をくり抜いて軟らかく煮たカボチャを詰めたゴボウを添えた。「和食には、みなが知らないこんな料理もあるのだと、マレーシアの人たちに伝えたかった」とチェンさんは言う。

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