MaaSが実現した世の中はどうなる?
それでは、MaaSによって自動車産業や公共交通に訪れる「破壊と創造」はどんなものか。まず、公共交通事業者は、マイカーに奪われていた客を取り戻すチャンスだ。欧州では、既にスイス鉄道やドイツ鉄道がMaaSの展開を始めている。公共交通は「サービスとしてのモビリティ」の元祖といえるが、MaaSは公共交通事業者にとってはサービス領域を広げるチャンスと捉えられている。国内でいち早くMaaSへの参戦を表明しているのも、東日本旅客鉄道(JR東日本)や小田急電鉄、東京急行電鉄などの鉄道事業者だ。
一方、自動車業界でMaaSにいち早く参戦したのはダイムラーだ。ダイムラーは鉄道以外のあらゆる交通サービスを傘下に収め、それを「moovel(ムーベル)」というアプリでワンストップに提供している。ドイツ鉄道とダイムラーは、ドイツ国内でMaaSの主導権争いを巡って、しのぎを削っているように見える。
マイカー利用を半減させるMaaSは、自動車業界にとっては“敵”に見えるかもしれないが、ダイムラーのように積極的にサービス領域を取りにいくことで、新たなチャンスが開ける。MaaSは、確かにマイカーの販売台数は減らすかもしれない。だが、その分、配車サービスなどに使用するサービスカーの需要は増えるし、1台当たりの稼働率も高める。それは整備需要の増加を意味するのだ。
また、OTA(Over the Air)による車載システムのバージョンアップやIoTを生かしたクルマの状態監視が広がっていくことで、クルマはネットワーク端末化する。スマホがさまざまなサービスの土台となったように、移動空間であるクルマはスマホ以上に多様なサービスを生み出す“ふ化装置”となる可能性がある。生活者とのリアルな接点を持つ自動車ディーラー網との強いつながりを生かしながら、移動以外のサービス提供を含めてどれだけ自社の付加価値として取り込めるかが、自動車産業がMaaS時代を生き残れるかどうかのカギとなるだろう。
公共交通との連携も重要になる。米フォードは公共交通の運営受託を開始しており、トヨタは西日本鉄道などと複数の移動手段を組み合わせたルート検索・予約・決済ができるMaaSアプリ「my route(マイルート)」の実証実験を11月から福岡市で始めている。
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