壮年性脱毛症は、男性ホルモンの作用によって毛包の成長期が短縮し、休止期が延長した結果、毛包が弱って小さくなってしまった状態だ。

 成長と休止のサイクルは、毛包の内部や周囲にある様々な「幹細胞」が互いに作用し合うことで制御されている。幹細胞は、細胞分裂を繰り返して増殖する能力と、様々な機能を持つ細胞に変化する能力を併せ持つ。

 毛髪再生医療のコンセプトは、毛包の成長に関わる細胞を取り出し、体外で増やした上で体内に戻すというものだ。日本では主に2つのグループが、2020年ごろの実用化を目指して研究を進めている。

 先行しているのが、資生堂と東京医科大学のグループだ。毛包の根元にある「毛球部毛根鞘細胞(DSCC)」に、毛包を活性化する作用があることに着目した。

本人の細胞を取り出し、増やして戻す
●実用化に向け研究が進む毛髪再生の仕組み
理化学研究所2種類の細胞を凝集させて毛包の「もと」を作る
資生堂大量の「毛根鞘細胞」で弱った毛包を活性化
(写真=細胞:資生堂提供)

培養細胞で既存毛包を活性化

 「DSCCを体外で培養して増やし、脱毛部位に注入すると、休止期にある既存の毛包が活性化され、成長期に入って太く長い毛髪が作られるようになると考えられる」。臨床研究の統括責任者である東京医科大学皮膚科学分野の坪井良治主任教授はこう説明する。

 DSCCに毛髪再生効果があることを最初に発見したのは、ドイツの研究グループだ。その後、カナダのバイオベンチャーであるレプリセル社が、ヒトでのDSCCによる毛髪再生の効果と安全性を確認した。

 創業当時から毛髪の基礎研究や育毛剤の開発を進めてきた資生堂は13年、レプリセル社とライセンス・共同研究契約を締結。16年6月から東京医科大学、東邦大学医療センター大橋病院と共同で、壮年性脱毛症の成人男女66人を対象に有効性と安全性を確かめる臨床研究を開始している。

 「患者自身から採取した細胞を使って、もともとある毛包を活性化するため、免疫拒絶などの副作用がなく、比較的安全性が高いのがメリットだ」と、坪井主任教授は述べる。

 臨床研究ではまず、髪の生えている後頭部などから毛根ごと頭皮を切り出す。その際に必要な頭皮は、直径約6mmとごくわずか。採取した頭皮は神戸市のポートアイランドにある資生堂の細胞加工培養センターに送られ、専門技術を持つ「臨床培養士」が顕微鏡をのぞきながらDSCCを分離する。