0度でも凍らない空間を作る

 この電場の技術で先進的な取り組みをしているのが、伊藤忠商事と伊藤忠ロジスティクスだ。電場を活用した鮮度保持装置の製造販売で実績を持つベンチャー企業のスーパークーリングラボ(大阪府門真市)や、北海道の農協の連合組織であるホクレン農業協同組合連合会と協力して、海外に食材を運ぶ実証実験を繰り返してきた。

 スーパークーリングラボの装置の仕組みはこうだ。リーファーコンテナ(冷凍・冷蔵機能を持つコンテナ)内にパネルを貼り付け、そのパネルを帯電させると、その周囲に電圧(電子が流れようとする力)が生じて、コンテナ内が電場の空間になる。

 電場では、水を0度以下に冷やしても凍らない「過冷却」と呼ばれる現象が生じる。温度が低いため細菌の増殖を抑えられるのと同時に、食材も凍らずに細胞を壊さない。

 青果物においては、低温障害が起こりにくくなることも分かっている。低温障害とは、温度が低い状態になると青果物の表面に褐変やくぼんだ斑点などが出ることをいう。

 これらの電場のメリットは実証実験で確認されているものの、鮮度保持の具体的なメカニズムまでは分かっていない。そのため農林水産省の補助金を受け、そのメカニズムを科学的に解明することを島根大学に依頼している。

 伊藤忠ロジスティクスではこの技術を活用して今年7月末から、台湾向けにメロンなどを出荷している。「今後は、畜産品や水産物の輸出にも取り組みたい」(伊藤忠ロジスティクスの野村保之取締役)と話す。

 仕組みは異なるが同じくコンテナ内に電場を作ることで鮮度を維持するコンテナを開発しているのが、群馬県のベンチャー企業、MARS Company。早ければ来年にもコンテナの外販を始める予定だ。同社は電場を生むコンテナ以外にも、魚介類の鮮度保持装置「sea snow」も開発している。同装置で塩分を含んだ雪状の氷を作り、その氷で鮮魚を包んで保存する。

鮮魚の質を落とさず輸送が可能に
●「sea snow」で製氷した氷の特徴
鮮魚の質を落とさず輸送が可能に<br /> <span>●「sea snow」で製氷した氷の特徴</span>
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 魚は死後、温度が0度以上だと腐敗を始める。一方でマイナス2度を下回ると凍り始める。そこで魚がマイナス1度前後の状態を保つように工夫している。さらに氷を魚の体液と同じ塩分濃度1%にすることで、浸透圧差で体液が流れ出すことを防ぐ。

 同社は、傷むのが早く、これまで産地以外ではほとんど食べることのできなかった北海道産の刺し身用のニシンやホッケの輸出を目指す。sea snowで保存したニシンやホッケを電場を使ったコンテナで運べば、船便を使えることは確認済みだ。「生で食べられる鮮度のままニシンやホッケを世界中に輸送できるようになると、海外でもニシンやホッケの刺し身を楽しめる」(MARS Companyの松井寿秀社長)。

 低コストの鮮度保持輸送技術が普及すれば、世界中に良質な国産食材を届けられるようになり、日本食のファンを増やしていくはずだ。

(日経ビジネス2016年9月19日号より転載)