主力であっても主役になれない農民工

 しかし、これらが現在の中国人の一般的な姿かというとそうではないようだ。

 私たちがたぶん一生知り合うこともないが、中国を理解するために重要な人々がいる。それは、中国に3億人いるといわれる「農民工」だ。

 1988年に留学して以来、香港や中国で仕事を続け、地元で交友関係を築いてきたノンフィクションライターの山田泰司氏は、彼らのことを「中国の主力でありながら、絶対に主役にはなれない人たち」と呼ぶ。

 私も、山田泰司著の『3億人の中国農民工 食いつめものブルース』を読むまで、農民工と呼ばれる人々のことはまったく知らなかった。収入格差があることは想像の範囲だったが、21世紀のいま、底辺の人々がこれほど凄まじい生活をしているというのは衝撃的だった。

 農民工は、農村からの出稼ぎ労働者のことである。

 山田氏はそれが誕生した経緯をこう説明する。

 「毛沢東主席の時代、すなわち新中国が成立した1949年から文化大革命が終了する1977年ごろまで、中国では、農民が都市へ移動することを厳しく制限していた。社会主義体制の下、国民に配給する十分な食糧を確保する必要があったことが大きい。

 それが、文化大革命が終わり最高実力者の地位に就いた鄧小平氏が打ち出した改革開放政策により、都市部の開発や工業の推進を決めると、それに伴い製造業や建築業で労働力が必要になった。ここで、農民は自宅のある農村を出て都市へ出稼ぎに行くことを許された。農民工の誕生である。」

 出稼ぎ先の都市部で医療や教育などの社会福祉を受けることができないのに都会に行く農民がいるのは、農業で「食いつめる」からだ。農業の年収はなんと3万2000円だという。むろん、自分で作る農作物を食べる以外は何もできない。

 日本がバブル景気の頂点にあった1990年、中国の人口のなんと73.5%が農民だったという。その後の都市開発で、多くの農民が「農民工」として都市部に移動して労働力になった。

 農民工の子どもたちは都市部で教育を受ける権利がないので、「留守児童」として故郷に残される。農民工の年収は、農民よりましだが、働いても、働いても、月給は6万円とか7万円止まりだ。それなのに、都市開発で家賃だけは倍増していく。景気が停滞すると、彼らが真っ先に職を失う。

 それにしても、農民工の暮らしは壮絶だ。部屋の中にトイレがそのまま設置されているアパートやロウソクの味がするパンの話を読んでいるうちに、気持ちがどんどん沈んできた。私がこれを一生続けなければならないとしたら、生きていく希望など持てない。