この絵本には何人のイラストレーターが参加したのでしょうか。
35人のイラストレーターが関わりました。僕は「絵・文・監督」という立場です。絵も描くし、文章も書く。スタッフさんの雇用からスケジュール管理、資金の調達などすべて担当しました。
制作費として1000万円が集まりましたが、クラウドファンディングのサイトに手数料として20%を支払う必要があります。手元に残るのは800万円ほどです。絵本の制作にはおよそ600万円ほどかかるため、200万円が残ります。もともと余ったお金は絵本の広告代として使うことを約束していたのですが、ここでも、ふと思うことがありました。
絵本は1年後、5年後、10年後も売れ続けるものであってほしい。ならば広告も1年後、5年後、10年後も続けられるものでなければならない。渋谷駅の看板広告を買ったとしてもせいぜい1週間で取り外される。10年後も続く広告ってどういうものだろうと考えました。
思いついたのが「音楽」でした。音楽であれば時代が変わっても流れ続ける。えんとつ町のプペルの歌を作ろうと思いつきました。日本アカデミー賞の優秀音楽賞を受賞した渡邊崇さんにお願いして楽譜を無料公開、音源も著作権フリーにして、誰が演奏してもいいし誰が歌ってもいい状態にしました。
35人もの人が関わって絵を作るというのは逆に大変な気がします。
そうですね。宇宙を描く人、空を描く人、月を描く人、雲を描く人はそれぞれ異なります。CG(コンピューターグラフィック)の人もいれば、絵の具で描く人もいる。色鉛筆で描く人もいます。最後にそれらを合わせてバランスを取らなければならない。
下絵は当然描きます。映画と同様、絵コンテをまず描き、それを全スタッフで共有するわけです。つまり、実際に書き出すまでに相当の時間がかかるんです。
まず、絵のタッチを合わせなければならないですよね。そして、町の構図を共有しておかないと、描く角度によって背景に登場する建物の場所がおかしいということにもなりかねません。
そのため、最初に町の地図を作りました。そしてこの町の人たちはどういう生活をしているのか、どこにゴミを出して、どこに流れていくのか。事前にみんなで共有してからでないと描き始められません。
そりゃ一人で絵本を作る方が全然楽です。自分の中にイメージしているものを描くだけで済みますから。分業制で作る作業は想定以上に大変でした。
イラストレーターはどういう観点で選んだのでしょうか。
イラストレーター特化型のクラウドソーシングには3万人が登録されていました。その中で、気に入ったイラストレーターの方を選んでお願いしていきました。もちろんそこに登録していない個人で活躍されているイラストレーターの方にも別途お声がけしました。
とはいえ、なかなか理解していただくのが大変でしたね。最初は門前払いでした。絵本監督みたいな肩書きだったら話は別なのかもしれませんが、そういう職業はそもそもない。単純にお笑い芸人だから信用がなかったのかもしれません。お笑い芸人が突然来て、絵のことも分かっていないのにプロのイラストレーターに僕の下で一緒に働いてくださいというのは、やはりハードルが高いですよね。でも、結局、理解してもらって全員が参加してくれました。
次回に続く
(ITpro 2016年10月26日より転載)
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