撮影:陶山 勉
撮影:陶山 勉
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『えんとつ町のペプル展』の個展を開くためのクラウドファンディングは記録的な資金調達に成功しました。当初の目標金額は180万円でしたが、結果的には4637万3152円が集まりました。

 最初から11月に個展を開くことは決まっていました。場所はセゾンアートギャラリーです。このギャラリーのスタッフさんが、個展の目玉にどうですか?と一つだけ光る絵を制作してくれたんです。特殊なフィルムに絵をプリントして、裏側からLEDライトで光らせる仕組みです。これを見た時に、全作品これでやりたいと思いました。

 これまでだったら、ギャラリーで絵を展示する場合は、絵に光を当てるのが当たり前です。でも、これだったら絵そのものが光るので、ギャラリーの電気を消すことができる。いや、照明設備のあるギャラリーでやる必要もなくなります。電気さえ確保できれば、夜の砂漠でもできるし、アマゾンの密林でも開催できる。ギャラリーから飛びさせるわけです。

 全部光る絵にできれば、例えばこれまで個展を見たことのない世界中の子供たちに絵を見せられると思いました。要は暗くなった夜にやれば、表参道でやる個展と何らそん色のない個展が開けるわけです。夢が広がりました。

 でも全部光らせるには相当高いコストがかかることが分かりました。最初に作っていただいたフレームは30cmでしたが、個展をやるにはもう少し大きい方がいい。60cmのフレームに変えて41個の絵を光らせるとなると、およそ1000万円近くかかります。

 量産できるものでもないので受注生産なんですね。入場料を取ればまだ良かったのかもしれませんが、無料で見せたかった。

一個だけ作ったスタッフの方にとっては予想外の展開でしょう。

 その通りです。ギャラリーからのプレゼントだったんです。ギャラリーからすればふざけんなという話ですね。ギャラリーは絵を売らなければいけないのに、光る絵にしたら売り物がなくなる。どこで採算を取るんだという話です。でも、とにかくやってみて、一回びっくりさせてみようよと説得しました。

 作品を作る立場として、僕たちは常に前に作った人と比べていました。要は僕の作ったものの方がいいでしょ?というアップデートの作業を繰り返していたわけです。恋愛でいえば、「最後の男」になろうとしているわけです。みなそこで競争を繰り返しているわけですが、最近思っているのは「処女を奪う」方が絶対にいいということです。人は原体験に一生振り回されるから。

 人の初体験を奪った方が絶対にいい。僕たちはすぐ入り口でお金を取ろうとしてしまう。だから貧しい国の子供たちは決して作品に触れられなくなってしまう。でも、お金を取れるレベルのものを無料で見せたい。僕たちはその瞬間、赤字でいい。初体験で感動した人たちがいつか大人になったときに回収できればいい。だから国内だけでなく、海外でも積極的に個展を開ければと思っています。

次回に続く

(ITpro 2016年10月27日より転載)

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