「トヨタは変わったか?」と題した日経ビジネスの特集が最近組まれたが、この数年間、取材を通じて「変わった」と肌で感じる機会は明らかに増えた。
豊田章男社長体制となって以降、トヨタはクルマの開発、そして人材育成の場として、モータースポーツ活動を積極的に行っている。今年4月には、カンパニー制を一部見直し、それまでヘッドオフィス直轄の一部署であった「TOYOTA Gazoo Racing ファクトリー」を、独立した「GAZOO Racing カンパニー」(以下GRカンパニー)へと再編。ここではレース活動はもとより、「GR」ブランドを立ち上げ、レースで培ったノウハウを用いて市販スポーツカーを作り、収益が得られる組織とすることで、モータースポーツを単なるマーケティング活動としてだけでなく、景気に左右されず持続可能にしていくことを目的としている。
現在、GRカンパニーが参戦している世界最高峰のレース、FIA選手権は2種類ある。1つが、シリーズ戦にルマン24時間レースを擁するWEC(FIA世界耐久選手権)、もう1つがWRC(FIA世界ラリー選手権)だ(WRCの詳細は過去のインタビュー記事を参考にされたい。「豊田章男社長はマキネン氏に“成瀬さん”を見た」「トヨタ勝利、“マキネン流”強いチームの3条件」)。
トヨタ、雨の富士を1、2位で制す
10月15日、WECの第7戦の決勝レースが富士スピードウェイで行われた。年に一度の日本でのレースは予定通り午前11時にスタートするも、台風の影響下で降り続く雨と濃霧により幾度もセーフティカーが導入され、赤旗中断となるなど波乱の展開となった。


午後3時半を過ぎた頃、コースはふたたび濃霧に覆われ2度めの赤旗中断。6時間の耐久レースのため、終了予定時間の夕方5時ぎりぎりまでレース再開に向けてスタンバイが続けられたものの霧が晴れることはなく、この時点で全走行時間の75%をクリアしていることからレギュレーションに則ってチェッカーが振られた。
結果は、TOYOTA GAZOO Racingの8号車トヨタTS050ハイブリッドが優勝。7号車トヨタTS050ハイブリッドが2位となり、第2戦のスパ・フランコルシャン以来のワン・ツー・フィニッシュとなった。トヨタがこのレースを落とせば、ライバルであるポルシェの年間シリーズタイトルがこの富士で決定する可能性もあっただけに、関係者もほっとした様子だった。

ハイブリッドのライバル不在に、来年はどうする?
トヨタがWEC用のレーシングカーとしては初のハイブリッドカーを開発し、参戦を始めたのが2012年のこと。(それまでの詳細な経緯はこちらを参照→「ル・マン敗北、豊田章男社長の言葉の意味」「『勝利』と『人材育成』、トヨタが挑む二律背反」)。
以降、LMP1-H(ルマンプロトタイプ1 ハイブリッドカー)という最上位カテゴリーのもと、トヨタはアウディ、そしてポルシェというライバルと戦ってきた。しかし、2016年シーズンをもってアウディが撤退、さらに先日、ポルシェも今シーズン限りでWECからの撤退を表明。両社は共に電気自動車でのレース、フォーミュラEへの参戦を発表し、さらにポルシェはF1への復帰も検討しているという。
いまトヨタとポルシェが戦っているLMP1-Hクラスは、ハイブリッドの技術面でも、年間100億円以上とも噂されるコスト面でも相当にハードルが高いカテゴリーだ。シーズン終盤のこのタイミングで、来シーズンの新規参入メーカーを望むことは現実的ではない。果たしてライバルを失ったトヨタは、これからどうするのか。
雨が降り続く富士スピードウェイで、2人のキーマンに話を聞くことができた。まずは、世界初の市販ハイブリッドカー、初代プリウスの開発責任者であり、“ハイブリッドの父”と言われる会長の内山田竹志氏だ。
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