
数か月前、トヨタのスポーツカー「86」のマイナーチェンジ試乗会が実施されたときのことだ。86のチーフエンジニアであり、現在はスポーツ車両統括部部長として今後BMWとの協業で登場すると噂される新型スープラなどトヨタのスポーツカー全体をみている多田哲哉氏の囲み取材がおこなわれた。その際にある新聞記者が多田氏に「個人的に好きなスポーツカーメーカーはあるか」と尋ねた。
多田氏は間髪入れず以下のように答えた。
「86以外のスポーツカーを買うとすればポルシェしかないです。もちろんフェラーリをはじめ、それぞれにいいと思うスポーツカーはありますが、エンジニアの目で見て、ポルシェは工業製品としては圧倒的だと思います。我々の目から見て『こんなことまでやってどうするんだ』というところまで手を入れている。その時は意図がわからないわけです。それが数年経つと『だからこうしていたのか』と気づく。それは911だけじゃなくて、ボクスターもケイマンもその思想を受け継いで作られています」
かつて、マツダRX-7や日産フェアレディZは“プアマンズ・ポルシェ”と呼ばれた時代があった。日産GT-Rが打倒ポルシェ911を掲げて開発され、ドイツにある、1周20kmを超え、コーナーの数は170を超える世界一過酷なサーキット、ニュルブルクリンク北コースのラップタイムでポルシェに勝負を挑み続けてきたのは有名な話だ。
日本メーカーのみならず、世界のスポーツカーメーカーにとってポルシェは昔も今もメートル原器であり続けている。
新型パナメーラを試乗
ポルシェが飛躍したのは、スポーツSUVへの参入によるものだ。
1990年代まで、ポルシェは「RR(リヤエンジン・リヤドライブ)」で走る「911」と、ミッドシップ(ミッドエンジン・リヤドライブ)の「ボクスター」のみを生産するスポーツカー専業メーカーだった。しかし、新たな市場を開拓するため、2002年に「カイエン」を投入する。フォルクスワーゲンとの協業で生まれたSUVだ。
マニアックなポルシェファンが嘆き悲しむ一方で、カイエンは世界的な大ヒット作となり、経営難がささやかれていたポルシェを一気に立て直した。その成功を受けて2009年には第二の矢となるセダン「パナメーラ」を発売する。
そして今年、パナメーラは第2世代へとフルモデルチェンジした。これはVWグループの新世代大型FR(フロントエンジン・リヤドライブ)用プラットフォーム「MSB」を採用する第一弾モデルでもある。同グループ内ではのちにこのプラットフォームを用いた、新型の「ベントレーコンチネンタルGT」や「フライングスパー」が登場する予定だ。
日本導入は来年の予定だが、ドイツの国際試乗会でひと足先に新型パナメーラを試すことができた。試乗会場であるミュンヘン空港に用意されたのは、4S、ターボ、そして4Sディーゼルの3モデル。残念ながらディーゼルは日本への導入予定はないというが、本国ではパナメーラやカイエンなどにもディーゼルエンジンモデルが用意されている。
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