「なるほど」の一言がイノベーションを起こす

:ただ、タスク型ダイバーシティの組織にしていくことにも覚悟がいります。というのは、多様な人を受け入れ、多様な意見があることを尊重しなくてはならないわけで、それ自体は簡単なことではありません。例えば私は、上司も同僚も、部下も外国人というなかで仕事をしてきていますが、面倒なことは多いですよ。毎回一から説明しなければならないし、会議をしてもいちいち反対意見が出てまとまらない。しかし、その指摘を素直に受け入れることに慣れれば、「確かに自分では思いもつかなかった」となることもしばしばあって、自分の視野の狭さや、隠れた思い込みに気づかされます。要は、日本人は、多様性のメリットを生かしながら、議論を突き詰めていく技術が身についていないだけなのだな、と感じています。

入山:上を見て「全会一致です」というのが好きな日本企業では回らないですよね。だからといって、「ダイバーシティはできそうにないから止めよう」となるよりは、とりあえず「女性管理職比率30%」といった、やや強引なやり方でも、やってみた方が断然いいと僕は思います。失敗しても、まずはやってみる方が、やらないよりはるかにいい。

:それは絶対にそうです。ダイバーシティもインクルージョンも難しく考えず、形だけでもまずはやってみるというのが大事です。私は「オープンマインド」と言っているのですが、あらゆる意見に対し、1回目は必ず「イエス」で答えてみる、というのを推奨しています。もちろん、ばかげた意見もたくさん出てきますが、それでも「イエス」と言い続ける癖をつけていると、組織風土が見事に変わってきます。

南和気氏
大阪大学法学部卒業後、米国企業を経て2004年よりSAPジャパンに入社。人事ソリューション事業責任者、アプリケーション営業責任者などを歴任し現職。現在、 SAP Asia Pacific Japanに所属。200社を超える人事コンサルティングの実績を持ち、グローバル経営戦略において「日本企業が勝つための人事」の提言に定評がある。著書に『世界最強人事』、『人事こそ最強の経営戦略』など。2017年度、立命館大学経営大学院にて「人的資源管理」講師を担当。

入山:面白いですね。以前、ギャップジャパン(Gap)の人事にいらした志水静香さんから「管理職を全員ファシリテーターにするという仕掛けを入れたところ、結構うまくいった」という話を聞きました。「全員ファシリテーター」というのは極端ですが、南さんがおっしゃるように、一人ひとりの意見やアイディアを引き出すということが、これからの現場のリーダーにこれから求められるスキルとなってくると思いますね。

:私もイノベーションの推進を目的としたダイバーシティ・トレーニングをいろいろな会社でやっているのですが、実際のところ、いくら頭ではわかっても、体が動くまでは少し時間を必要とします。日本企業の同質性の極み、みたいな会社で30~40年やってきた人にいきなり「インクルージョン」とか言ったところで、それはなかなか……。

個々の意見やアイディアを引き出すためには、日常のコミュニケ-ションスタイルから変えていく必要があるように思います。

入山:手っ取り早くコミュニケーションスタイルを変えるために、どんな意見に対しても否定することなく、まずは「なるほど」と答えてみる、というのはどうでしょう。

:なるほど(笑)。それはいいですね。賛成でも反対でもないところがいい。突飛な意見でもまずは受け入れ、承認する。コミュニケーションスタイルを「なるほど」に変えると、仕事だけでなく、家庭や友人関係の円満にもつながりそうです。

入山:つながりますよ。夫婦なんてダイバーシティの小宇宙ですから(笑)。どんな意見にも「なるほど」と言ってもらえるという安心感があれば、ちょっとひらめいた思いつきでも、上司に気軽に話してみようという気になります。グーグルがなぜ成功しているかを人工知能で解析した結果分かったことの一つが、心理的安心感だったそうです。「何を言っても大丈夫」という安心感は組織の中でイノベーションを生み出す上でとても重要です。

:同感です。どれほど意見をもっていても、最初から否定されると分かっていれば絶対言わなくなります。学校教育においても、日本人は「正解」か「不正解」かという世界で評価されて育ってきているので、どうしても自分の意見を言いづらくなる。デモグラフィー型ダイバーシティをタスク型ダイバーシティに変え、現場でイノベーションを起こすための秘訣はコミュニケーションにありそうですね。全社員イノベーター化の第一歩は、「なるほど」の一言からはじまる。