現場発のイノベーションを創り出すには

入山:「イノベーションは現場で起こすべし」ということには、僕も完全に賛成なのですが、現場での「知の探索」を阻むのが、「みんな忙しい」ということなんですよ。「知の探索」というのは、失敗も多いし、回り道ばかりで一見ムダに見えるものです。ですが、ある程度、戦略的にムダなことをやらないとイノベーションにはつながらない。その余白をどこに見つけるかというのが問題です。

:おっしゃる通り、日本企業の現場はみんな忙しくて疲弊しています。現場で「知の探索」を進めるためには、マーケットや今起きている事象などを、じっくり時間をかけて突き詰めて見ていくような余白が必要です。私は、イノベーションを起こす組織づくりをしたい。という相談を多く受けるのですが、そういう時には、具体的にまず始められることとして、「目標設定の仕方を変える」ことを勧めています。労働時間が週40時間だとすれば、30時間程度で達成することを前提とした目標設定にし、それで会社として成り立つように人員配置を設計するのです。そこで空いた時間を新たな価値創造に充てられるようにするわけです。

入山:なるほど。私は「働き方改革」によって、余裕を持った働き方ができるようにして、その余白で「知の探索」ができればいい、と考えていたのですが、一人ひとりの仕事の負担を減らす、というやり方もありますね。

:実はこれは日本企業ならではのやり方です。海外の企業では、人数とポジションの数と、あるべき人件費がきっちりと紐づいているので、人を増やせばその分、売上目標が上乗せされる構造を避けることができます。一方、日本企業では要員数の管理を厳格にしているわけではなく、あくまで人件費だけで管理しているので、人数を増減することが比較的容易にできます。従来10人のチームで1億円の目標設定しているのであれば、11人で1億円の目標設定に変えてあげるのです。そうすると全員に余白が生まれます。新規事業開発室のような部門をつくって丸投げをするのではなく、現場の中に「知の探索」ができるような余白をつくり、「新しいことを考えられる」ようマネジメントするのです。

入山:私にはその発想はなかったですが、それはいいですね。確かに日本はメンバーシップ雇用で配置転換なども比較的容易にできるし、人数管理も厳密にしていないわけだから、少し人数を増やしてあげて、負担を減らしてあげればいいというわけですね。

:もちろん、「働き方改革」で労働時間を短くするのもいいと思うのですが、必ずしもそれだけで「知の探索」につながっていくのかと考えると少し疑問もありまして。もちろん、イノベーションの文化がすでに浸透している企業であれば、社員に自由な時間を与えることは、より斬新な発想を生むと思いますが、多くの日本企業においては、やはりイノベーションをできる限り早く起こそうと思えば、むしろ日々の仕事の中に「知の探索」が組み込まれている方がいいような気がします。

入山:日本型雇用の特長を生かした人事マネジメントにより、現場にR&Dや新規事業推進室の機能を組み込んでしまうというわけですね。そうすれば、全員がイノベーションを自分ごとにすることができる。

:先ほど入山先生がイノベーションの定義について「少しでも新しいことをして変化して前に進むこと」とおっしゃっていましたが、まさにその通りで、大切なのは大小関係なく全員がイノベーターとなって「新たな価値創造をいつも頭の片隅に置くこと」だと思うのです。では、何をそのゴールにすべきかというと、今の日本企業が求めているのは、パラダイムのシフトであり、新しいマーケットをつくることですから、やはり「小さくとも、事業として成功する形をつくること」なのではないかと。新しい価値が最終的に「事業化」できなければ、続けることができない。だとすれば、まずは今の仕事をしている中にある価値に新しい価値をくっつけたり、新しい価値を吹き込んでふくらましたり、というところが最初の一歩として重要なのではないかと思うわけです。

入山:なるほど、それは日本企業でイノベーションを起こしていくための第一歩として、とても現実的なやり方のような気がします。