(日経ビジネス2017年7月17日号より転載)

慶応義塾大学環境情報学部教授
1987年東京大学大学院・工学系研究科修了、NTT(日本電信電話)入社。NTTコミュニケーションズを経て、2016年から現職。専門は無線タグシステムの情報技術。
製造業に比べて生産性の低さが指摘されてきた流通小売業界で、IT(情報技術)を生かす取り組みが進んでいる。商品管理を効率化する手段として注目を集めるのがRFID(Radio Frequency Identification)。電子タグのデータを読み書きする非接触型の認識技術だ。
商品管理の手段として主にこれまで使われてきたバーコードとの最大の違いは、読み取りの手間を大幅に削減できる点にある。バーコードは1枚1枚を読み取り機の真正面に持ってくる必要があった。一方、電波を使うRFIDはスキャナーと呼ばれる読み取り機と商品との間に障害物があっても読み取り作業ができる。電波は障害物の後ろまで回り込む性質があるためだ。まとめて情報を読み込めるため、1秒間に100枚以上の一括処理も可能となる。
扱う情報量が多いのも利点だ。標準的な電子タグの情報量はアルファベット換算でおよそ60文字分。これは一般的なバーコードの約5倍に相当する。商品の種類ごとだけでなく、商品一つひとつにそれぞれ個別のID(個体識別)番号を割り振ることができ、商品管理の精度を高められる。
レジでの自動精算に弾み
RFIDの普及により、まず恩恵を受けるのが小売業界だろう。代表例がレジでの精算効率化だ。すでに2017年2月、ローソンとパナソニックが自動精算システムの実証実験を実施した。
従来は店員が商品を手に持ち、バーコードを探して、一つひとつスキャナーで読み取っていた。非接触で読み取れる電子タグであれば、バーコードを探す手間がなくなる。
それだけではない。電子タグで扱える情報量の多さを生かして、残りの消費期限などに応じて食品の値引き率を変えるといったこともしやすくなる。
今は店員が手動でシールを貼り付けるなどして値引き率を表示しているが、電子タグなら「賞味期限まで2日の商品は20%引き」「あと1日に迫ったのでさらに50%引き」といった値引き販売を自動処理できる。また検品や棚卸しも、瞬時に点数が把握できるので大幅に作業を効率化できる。
メーカーや物流業者にとっても意義は大きい。
電子タグを付けた商品であれば、工場での生産段階から物流トラックでの配送、販売、さらには消費に至るまで、商品をサプライチェーンの各所でリアルタイムに追跡できるからだ。
メーカーにとっては、市場に流通している商品の具体的な数量に基づいた精緻な需要予測が可能になる。在庫の「見える化」が進むことで、見込み生産をする必要性が低下し、流通在庫や返品の削減にもつながる。物流業者にとっても、トラックに積載されている商品の個数の情報を共有することで、業者の枠を超えた共同配送といった効率化策が取りやすくなる。
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