(ここで、出版担当者より「質問はあと1つか2つで終わりにして下さい」との要請が入る)。

「日本人としてのものの見方が大きく影響していると思う」

日本ではあなたの受賞が大きな話題となっています。日本にはあなたの読者が沢山います。日本の読者に対するメッセージは何かありますか。

イシグロ:日本の読者には大変感謝しています。日本で私の本を出版して下さり、私を支えて下さっている方々に大変感謝しています。ただ、もっと大きな意味で、私は日本の社会に感謝をしています。というのも、私が書くことの多くは、そして私の作品の書き方の大きな部分は日本文化から来ているからです。

 ですから私は、日本にも日本人に対しても、そして自分が既に日本人でノーベル文学賞を受賞された川端康成氏や大江健三郎氏の後を歩んでいることも誇りに思います。さっき、(ノーベル文学賞を)自分が受賞して、まだ受賞されていない偉大な作家の方々に対して申し訳ない思いだと話しましたが、村上春樹氏の名前がすぐに私の頭をよぎりました。

(5歳から英国に住んでいるあなたにとって)「想像上の日本」というのが自分の作品にどう影響してきたと思いますか。あるいは今後どう影響していくと思いますか。

イシグロ:私の小さかった頃の日本に関する思い出は、私の初期の作品には大変な影響を与えたと思います。私が日本の影響を大いに受けたと言うとき、それは非常に微妙な形で大きな影響を受けてきたという意味です。私は英国で、日本人の両親によって、日本語を話す家庭で育てられました。そういう環境で育ったわけです。いつかは帰国して、大人として日本で生活しても困らないように育てられたのです。ですから、今も私がそのまま英国に住み続けているというのは、ある意味、たまたまのことで、事故のようなものです。

 つまり、日本については直接的な記憶があるというよりは、物事を日本人ならばどのようにみるかということを教えられて育ったということです。(了)