来週末、10月14日(金)~16日(日)に富士スピードウェイで世界耐久選手権(WEC、ウェック)第7戦「富士6時間耐久レース」が開催される。トヨタはこの6月に、第3戦「ル・マン24時間」で、念願だった初勝利をほとんど手中にしながら、残り約3分でリタイヤとなった。
ル・マン24時間、そして来年から開始する世界ラリー選手権(WRC)などのモータースポーツへ、資金も人材もつぎ込むことは、トヨタという企業にとって、どういう意味があるのだろうか。前編に続き、WECのレースマシン開発を司るレーシングハイブリッド・プロジェクトリーダーの村田久武氏に話を聞いた。
(聞き手は藤野太一、編集Y)
(前編はこちら→「ル・マン敗北、豊田章男社長の言葉の意味」)
編集Y:すみません、素朴な疑問なのですが、トヨタは2014年にはWECのドライバーとマニュファクチャラーのダブルタイトルを取っていますよね。それでもやはり、ル・マンは勝たなきゃいけないものなんですか? 極論すれば、「シリーズタイトルよりもル・マンのほうが価値がある」ということでしょうか。

村田:うーん、レースって色々な形がありまして、WECは基本が6時間のレースなんです。1時間のレースであれば、実力がなくても“まぐれ”で勝つこともある。でも、6時間になるだけで相当難易度が上がります。ドライバーもマシンもサポートも「予期せぬトラブル」に振り回される。そして24時間はその4倍ですから。
とにかく色んなことが起こって、それを切り抜けて、切り抜けて、切り抜けて、ゴールに持ち込むのがル・マンなんです。23時間57分の時点でトップを走っていたって勝てない。本当に強いチーム、強いドライバー、すべてが揃わないと勝てない。
編集Y:なるほど。でも、3分前までトップだったのに勝てないというのは…もはや「勝者」と変わらないのではと思うのですが。それなのに、そこまでの努力が無に帰すのは、なんとも残酷な気がしますね。
ポルシェのパーティでかけられた言葉
村田:僕がル・マンに携わるようになったのは、入社してすぐ、1987年くらいのことでした。現地で過去に優勝したクルマが並んでいるポスターを買ったことがあるんです。それを眺めていると、イタリアの田舎の小さなメーカーが、ル・マンで勝って、勝って、結果を残して、リスペクトされて一流の会社になっていったということがわかる。それがフェラーリですよ。
今年のレース後に、優勝したポルシェのパーティに招待されまして、会場に足を運んだら、みんながスタンディングオベーションで迎えてくれた。ポルシェのチーム代表が「今年はトヨタのレースだった。だけど俺たちは次も負けないからな」と、そう言ってくれた。いい勝負したよなって、心の底から思ってくれたんだと、僕はそのとき感じたんです。
だから、やっぱりル・マンで勝って、1回だけじゃなくて何度も勝って、それでいつか本当にリスペクトされる。実は今年、初めてそう感じたんです。
トヨタはこれまで何度もル・マンに参戦しているし、2位にだって5度もなっている。何よりも世界最大の自動車メーカーです。それでも、一流ではないと?
Powered by リゾーム?