「トヨタよ、敗者のままでいいのか。」

 自らを鼓舞し、逃げ場を切り捨てるかのようなキャッチフレーズを掲げ、臨んだ今年のル・マン24時間レースにおいて、中嶋一貴選手がドライブするトヨタTS050ハイブリッド5号車は、ゴールまで残り3分を切った時点でトップを走っていた。誰もがトヨタ悲願の初優勝を確信した次の瞬間、無情にもマシンはホームストレート上で止まってしまう。規定上、完走にすらならなかった(6号車が2位入賞)。

 レース後、豊田章男社長からコメントが発表された。

 ル・マン24時間耐久レースに、ご声援を送っていただいた皆様に心より感謝申しあげます。本当にありがとうございました。TOYOTA GAZOO Racingは、「敗者のままでいいのか」と、あえて自分達にプレッシャーをかけ、今までの悔しさを跳ね除ける戦いを続けてまいりました。メカニック、エンジニア、ドライバー、そしてサプライヤーの皆さま…戦いに携わる全ての者が、力を尽くし、改善を重ね、「もっといいクルマ」となって戻ってこられたのが、本年のル・マンであったと思います。

 ついに悲願達成か…と、誰もが、その一瞬を見守る中、目の前に広がったのは、信じがたい光景でした。トヨタのクルマも、速く、そして強くなりました。しかし、ポルシェは、もっと速く、そして強かった…。決勝の24時間…、そして予選なども含め合計で30時間以上となるル・マンの道を、誰よりも速く、強く走り続けるということは、本当に厳しいことでした。チームの皆の心境を思うと…、そして、応援いただいた全ての方々へ…、今、なんと申しあげたらよいか、正直、言葉が見つかりません。

 我々、TOYOTA GAZOO Racingは“負け嫌い”です。負けることを知らずに戦うのでなく、本当の“負け”を味あわさせてもらった我々は、来年もまた、世界耐久選手権という戦いに…、そして、この“ル・マン24時間”という戦いに戻ってまいります。もっといいクルマづくりのために…、そのためにル・マンの道に必ずや帰ってまいります。ポルシェ、アウディをはじめ、ル・マンの道で戦った全てのクルマとドライバーの皆さまに感謝すると共に、また、一年後、生まれ変わった我々を、再び全力で受け止めていただければと思います。

 皆さま、“負け嫌い”のトヨタを待っていてください。よろしくお願いいたします。

 敗戦の弁を、しかも型どおりではなく、とても生々しい豊田章男社長自身の言葉で配信したトヨタ。「敗者のままでいいのか」と同様、日本の企業としては異例といえるメッセージだろう。彼らがそれほどに思いを寄せる“ル・マン24時間”とは何なのか。

 そして、ル・マン24時間を初めとするレースへの参加は、トヨタという企業にとって、どういう意味があるのか。

 トヨタのモータースポーツ活動の理解を拡げる役目を担う、モータースポーツマーケティング部TGR推進室室長の北澤重久氏と、ル・マン24時間を含めた世界耐久選手権(WEC、ウェックと読む)のレースマシン開発を司るレーシングハイブリッド・プロジェクトリーダーの村田久武氏、トヨタ自動車の2人のキーマンに話を聞いた。

(写真提供:トヨタ自動車 レース写真はすべて以下同)

 トヨタは2009年に豊田章男さんが社長に就任しました。いま思いかえせば、このタイミングから社内的にもモータースポーツに対する取り組み方や心もちが変わったのでしょうか? 

北澤:豊田が社長になって、“もっといいクルマを作ろうよ”をキーワードに、クルマでお客さまに笑顔になってもらおう、といった声を上げはじめました。その時に「では、その時のモータースポーツの役割とは何なのか」をもう一度考えなおしたわけです。