中国は世界最大の貴金属精製能力を備えているうえ、LIBの主要4部材(正極材、負極材、電解液、セパレータ)の国産化率が90%を突破。LIB産業のサプライチェーンが形成され、低コストで部品・部材の調達ができるようになった。

 その一方で、中国は外資系LIBメーカーの市場参入を排除する政策を実施してきた。NEVの補助金の支給は中国政府の認定した地場メーカーのLIBの搭載が条件とみられる。LIB量産に伴う多額の投資、原材料確保、及び価格競争などのリスクが日米欧の企業にとって足かせとなるなか、地場メーカーはLIB生産の能力強化に取り組んできた。

生産能力はすでに過剰気味に

 中国のLIB生産能力は17年に110ギガワットを超え、生産能力はすでに過剰気味。にもかかわらず地場メーカーは、NEV市場の需要を見据えて現在も、LIB向けの先行投資を競い合っている。主要メーカー8社の投資計画をまとめると、20年のLIB生産能力は245ギガワットに達し、市場需要の2.7倍に膨らむと予想されている。

 一方、容量・エネルギー密度の高いハイニッケル三元系(NCM811)、ニッケル酸リチウム(NCA)のLIB生産は日韓メーカーと比べて少ない。このため、地場LIBメーカーは依然、両国メーカーにキャッチアップする必要がある。また、LIBメーカー各社が、基礎化学物質である炭酸リチウムや主要材料であるコバルトやニッケルを確保しようと走り、材料価格の上昇を招いている。

 こうしたLIB産業をめぐる状況のなか、中国政府は3つの施策で再編に取り組もうとしている。1つはLIBへの参入基準の引き上げである。17年3月の「動力電池産業発展促進行動方案」、5月の「自動車産業投資管理規定(意見募集)」で具体的な基準が示された。

 2つめが、容量・エネルギー密度の高いLIBへのシフトを促すこと。例えば、中国政府の補助金基準を見ると、年内に航続距離150km以下のEVへの補助金支給を中止。300km以下のEVには前年比最大58%減額する。補助金支給の厳格化により、販売したNEV(個人購入を除く)の実走行2万kmが支給条件となるため、地場メーカーの淘汰が進むものと予測される。

 3つめが外資系規制緩和だ。地場LIBメーカーの成長には、外資系メーカーの参入を排除する中国政府の保護政策「ホワイトリスト」(工業情報省が地場メーカー57社を認定)の存在がある。しかし、5月末、中国自動車工業協会が発表したEV電池メーカーについての別の「ホワイトリスト」の場合、選ばれた21社に韓国系メーカー3社が含まれた。このため、業界の風向きは変わりつつあるとする見方が広がった。日韓LIBメーカーが中国でLIB販売を伸ばしてゆけば、地場LIBメーカーに危機感が広がり、業界再編は加速するものとみられる。

「ホワイトリスト」は21年に撤廃

9月発売の日産シルフィEVにはCATLセル搭載

 1~6月の中国LIB市場シェアを見ると、CATLとBYDの合算シェアは63%に上がり、業界の寡占化が進んでいる。CATLは12年の独BMWとの協議を契機として、技術力とブランド力を向上させ、18年には独ダイムラーとVWへのLIBの供給が決定。CATLは欧米系メーカーより厳しい採用基準をもつ日系の広汽トヨタ、広汽三菱へのLIB供給も果たした。

 ただし、NEV補助金の事後取得を理由に、LIBメーカーの売掛金回収期間が引き延ばされる傾向にある。一部のLIBメーカーは研究開発の投入や生産能力を強化することができず、経営困難に陥っている。実際、業界3位の沃特瑪や中堅LIBメーカーの広東猛獅科技が今年1~6月期にそれぞれ318億円、49億円の赤字に転落した。

 外資系電池メーカーの参入障壁だった「ホワイトリスト」は、NEV補助金政策の中止に伴い21年に撤廃される。韓国系メーカーは、生産体制の整備を急ぐ。LG化学は地場大手素材メーカーの華友コバルトとLIB正極材の合弁生産を計画。南京で年間EV50万台分に対応する新工場を建設する。SKイノベーションは20年に常州セル工場の稼動を目指す。日本のパナソニックは3月、大連工場から出荷を開始。上海進出を表明したテスラへの電池供給を勘案すれば、生産能力増強も見込まれる。

 こうしたことから中国EV電池市場における競争は21年以降、激しさを増し、地場電池メーカーの淘汰は加速することが予想される。中国のLIBメーカー数が16年の約150社から現在は約60社に減少、5年後には生き残る先は20社程度であろう。

 CATLの曽毓群会長が「台風(保護政策)で舞い上がる豚(技術力の弱い企業)が本当に飛べるか」を題目とするメールを社内に配信。差し迫る危機と技術向上の必要性を強調した。いかに高品質の電池を低コストで生産する体制を構築できるか。中国LIBメーカーの実力が試されている。

 湯進(タンジン)
みずほ銀行国際営業部主任研究員・博士(経済学)

2008年入行時より国際営業部に所属。自動車・エレクトロニック産業を中心とした中国の産業経済についての調査業務を経て、中国地場自動車メーカーや当局とのネットワークを活用した日系自動車関連企業の中国ビジネス支援を実施しながら、継続的に中国自動車業界に関する情報のメディア発信も行っている。(関連情報はこちら)(論考はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係)

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  • mizuho global news「中国新エネルギー車市場の現状」(2018.10) みずほ銀行
  • 週刊エコノミスト「中国の EV革命に変化」 (2018.9) 毎日新聞出版
  • 東洋経済オンライン「日本車が今になって中国で躍進した根本要因」(2018.8.19)
  • 日経産業新聞 「中国EV電池市場、外資規制に緩和期待」(2018.6.25)