夜はロボット、日中は人
夜間のロボット作業で取りこぼした実を、人が日中、手作業で採る。イチゴは栽培面積1000平方メートル当たりで年間約2000時間の作業時間がかかると言われている。そのうち収穫にかかるのは500時間程度。7割の果実をロボットが収穫すると、350時間の作業時間の軽減につながるわけだ。
人の作業代替にとどまらず、ロボットならではの付加価値に着目してイチゴ収穫ロボットを開発しているのが宇都宮大学だ。同大学大学院工学研究科の尾崎功一教授は、収穫したイチゴの実を人の手に触れることなく消費者まで届けられる仕組みを研究している。
収穫するのは栃木県の高級イチゴ「スカイベリー」。大きい粒で全長5cm以上、重さも60g以上ある大粒の品種だ。百貨店で、1個1700円で販売されたこともある。ただし、表面が傷んでいないことが必要条件だ。
尾崎教授はスカイベリー一つひとつの実を入れるカプセルを用意した。カプセルには円盤状のフタがある。まず、そのフタをロボットに装着。フタには端から中央部分までの裂け目が1本あり、そこに果柄を引っ掛けて実がぶら下がる状態にする。その状態で逆さにすると、実がフタの上に載る。その上にカプセルをかぶせれば、ロボットや人がイチゴに全く触れることなく容器に収納できるというわけだ。
尾崎教授は「ロボットの導入にはコストがかかる。普及のためには、人間の作業ではできない付加価値で収益力を高める必要がある」と説明する。
果実だけではなく、葉物野菜も収穫自動化が始まっている。信州大学はこれまで手作業に頼っていたホウレンソウの自動収穫装置を実用化。その技術を生かし、レタス用装置も2018年度までに実用化する計画だ。開発を進める工学部の千田有一教授は「ホウレンソウやレタスはほかの作物に比べ収穫に要する作業時間が長い。自動化による生産性向上の余地は大きい」と語る。
収穫ロボットの作業効率を上げるためには、人の作業を前提とした農園ではなく、ロボットが作業しやすい農園を最初から作る発想の転換も必要だ。
シブヤ精機が開発しているのが、ロボットではなくイチゴの栽培棚が自動で移動する「循環移動式栽培システム」。下の図のように黄色い枠で囲ったイチゴ棚の手前の列が、まず写真の右下に移動。同時に写真奥の列が左上に移動し、最も奥に到着した棚が、今度は手前の列にロボットの前を通過しながらスライドする。ロボットは、棚が目の前を通るタイミングで実を採取する。
ロボットの導入が進めば、農園のあり方も変わる。完全自動農園の出現も現実味を帯びてくる。
●シブヤ精機のイチゴ収穫ロボットと「循環移動式栽培システム」
(日経ビジネス2016年8月22日号より転載)
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