9月6日には北海道胆振東部地震が発生、大きな被害が出た(写真=朝日新聞社)
9月6日には北海道胆振東部地震が発生、大きな被害が出た(写真=朝日新聞社)

 2018年も残り3カ月。日本では大きな災害が相次いでいます。6月に発生した大阪府北部地震はマグニチュード6.1、大阪北部の最大震度は6弱に達しました。西日本を中心に大きな被害が出た7月豪雨は死者200人を超える惨事となりました。9月初旬には大型の台風21号によって関西国際空港が水没し、その1週間後には北海道で最大震度7の地震が発生。大きな被害をもたらしました。

 災害は社会を経済を、そして歴史をも変えるインパクトがあります。株式から金のような貴金属、コメに代表される農産物まで、各種の相場にも大きな影響を及ぼします。筆者は、長らく住友信託銀行(現三井住友信託銀行)の資産運用部門で勤務した後、内外金融機関やシンクタンクで資産運用や調査研究業務に携わってきました。現在は相場研究家の肩書きで講演や執筆を行うほか、財団や金融機関の投資アドバイザーをしています。歴史を振り返ると、日本では80年周期で大きな変動に見舞われていることが分かります。

享保の改革、寛政の改革の背景に地震や飢饉

 天変地異は歴史の流れに大きな影響を及ぼします。第5代気象庁長官だった高橋浩一郎氏(1913~91)は、その著書『気候変動は歴史を変える』(1994年刊、共著、丸善)のなかで、日本は80年ごとに大変動に見舞われると指摘しています。いわく、「1620年の江戸幕府の確立を起点と考えるなら、1700年は享保の改革、1780年は寛政の改革、1860年は幕末、そして1940年の戦争の時代である」というのです。振り返ると、確かにその通りなのです。

中心年日本海外
1620年 1615年:大坂夏の陣→豊臣家が滅び江戸幕府が固まる 1620年:宗主国スペインの金融危機で伊ジェノアの低金利が終焉
1700年 1703年:江戸大地震 1707年:イングランドとスコットランドが合併
1707年:宝永大地震、富士山噴火→元禄時代の終わり、享保の改革へ
1780年 1783年:浅間山噴火、天明の大飢饉→寛政の改革(1787年)へ1775年~83年:米国独立戦争
1783年:アイスランド・ラキ山噴火、1789年:フランス革命
1860年 1853年:黒船来航、1854年:安政東南海地震、1855年:安政江戸地震 1853~56年:クリミア戦争→ロシア農奴解放など近代化
1868年:明治維新1861~70年:イタリア統一戦争
1861~65年:南北戦争→奴隷制廃止
1870~71年:普仏戦争→ドイツ統一、フランス第三共和政に
1940年 1931年:満州事変、1937年:日華事変、1941~45年:太平洋戦争 1933年:ルーズベルト政権、ヒトラー政権が誕生
1939~45年:第二次大戦
1950~53年:朝鮮戦争
2020年? 2011年:東日本大震災

 もちろん、80年周期といっても実際にはプラスマイナス10年くらいの幅があって、高橋氏が指摘した年はその中心くらいだと考えるべきでしょう。たとえば「1860年=幕末」の混乱は、1853年のペリー来航から始まって1869年の戊辰戦争で一応の収束をみています。「1940年=戦争」は1931年の満州事変から始まって、1950年の朝鮮戦争勃発あたりまで混乱が続きました。

 筆者が思うに、この80年周期とは、安定の60年期と、混乱の20年期で形成されているのではないでしょうか。古来、中国では十干十二支=60年を一つのサイクルと捉えていますが、その新たな周期が始まる前に、一つの時代の終わりと再生に充てる約20年の準備期間が必要なのだと思います。

 それはともかく、江戸第8代将軍、徳川吉宗が主導した享保の改革(1716年)や、第11代将軍・徳川家斉の時の老中、松平定信が始めた寛政の改革(1787年)も天変地異が関係しています。高橋氏は「1700年は享保の改革、1780年は寛政の改革」と改革開始の年をラフに言っていますが、指摘したい主旨は変わらないと思います。

 享保の改革の前に発生したのは富士山の噴火と宝永地震(ともに1707年)です。寛政の改革につながったのは天明の大飢饉(1783年)です。つまり、いずれの改革も災害の影響で逼迫した幕府財政を再建するための措置だったのです。

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