窒素ガスを満たして密閉

 殺菌技術とともに、ロングライフ食品を支えるのが、包装技術だ。劣化の原因となる酸素を食品に触れさせないような包材が使われている。以前はポリプロピレンなどの1層からできたものが多かったが、今の主流は酸素透過性の低い素材をポリプロピレンなどでサンドイッチ状に挟み込んだものだ。

 さらにここ数年で普及し始めたのが、「MAP(ガス置換)包装」と呼ばれる包装技術だ。食品が入った容器内を窒素ガスや炭酸ガスで充満させて、食品の劣化を防ぐ。包装を行う装置の中をガスで充満させたうえで、食品を容器内にパックする仕組みとなっている。

 ロングライフ食品の包装技術には、容器内から空気を抜き、真空密閉する方法もある。だが、MAP包装の方が食品の鮮度を保ちやすい。充満させるガスに保存機能があるからだ。例えば窒素ガスは酸化を防ぐだけでなく、包装の型崩れも抑えるメリットがあり、炭酸ガスは、菌を増やさない静菌作用を有す。ガスの組成を食品ごとに変えることも、ロングライフ食品の賞味期限延長に寄与している。

 マルハニチロは今年春から発売した商品の一つに、MAP包装を取り入れた。「より品質を保てる包装であるため、導入した」と宮下副部長は話す。

 MAP包装は、鮮魚の切り身や精肉にも応用するケースが見られる。ヤマザキでは、野菜サラダのMAP包装を開発中だ。「刺し身の賞味期限なら、1~2日先まで延ばすことが期待でき、画期的だ。MAP包装に関心を持つ小売店が増え、店内ではなく工場で調理する体制を整えるスーパーも出てきた」とコンサルタントの増田代表は話す。

 ロングライフ食品が普及している背景には、共働きで忙しい世帯や買い物に行くのが困難な高齢者の増加がある。一方で、食品の廃棄ロス削減、商品陳列に要するマンパワー対策に役立つなど、流通側のメリットも期待できる。

 今後さらに技術が進歩していけば、賞味期限の長い生鮮食品が、当たり前のように店頭に並ぶ時代になるかもしれない。

窒素などのガスが劣化を防ぐ
●ガス置換包装に使うガスの種類と特徴
N2
(窒素ガス)
主に微生物の増殖や酸化を抑える。安定していて無害のため、最も広く使われている
CO2
(炭酸ガス)
主に微生物の増殖を抑える。無害だが、水に溶けて体積が減少し、酸味が出るためN2ガスと混合することが多い
O2
(酸素ガス)
海外を中心に、主に生肉やマグロの鮮度の保持に利用。血液中のミオグロビンと酸素が結合して赤色を保持
食品の素材によってN2やCO2などの配合比率を変えて、容器に充塡させる
出所:増田食品開発コンサルティング

(日経ビジネス2016年7月11日号より転載)

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