鈴木:もう10年くらい前からずっと考えていたんですよ。ミツワ(自動車)が日本に初めて輸入したポルシェが53年式の356なんです。ちょうど同年式のクルマを手に入れて、仕事も還暦をすぎて半分リタイヤしたし、70歳になってからだと気力体力がキツイから今のうちだな、って。

 日本で2年に1度、「ポルシェ356ホリディ」という大きなイベントをやるんです。ポルシェの公認クラブということもあって、本社からマーケティングの担当者が毎回来日してくれるんです。あるときそのスピーチで、「ポルシェにとって日本のファンは特別な存在です。本社から一番遠くにお住まいの方々なのですから」と話していて、そんなふうに見られているんだ。だったら、やっぱり行ってみようと。ちょうど再来年が70周年だというので、それに合わせて準備をしたって話なんです。

65年前のクルマでも平気な理由

 現在、日本からクルマでヨーロッパへ渡るルートは1つしかない。大陸へ渡る手段は鳥取県の境港から韓国経由でロシアのウラジオストクまで2泊3日のフェリー旅だ。その後、無事に通関手続きを終えれば、ロシアに上陸だ。鈴木さんは、自宅のある千葉県を出発し国内を走って境港から出港、ロシア、ラトビア、リトアニア、ポーランド、チェコ、オーストリア、ドイツの8カ国をまたいでのルートを選択した。 

ポルシェAGが制作した鈴木さんのルートマップ
ポルシェAGが制作した鈴木さんのルートマップ
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でも冷静に考えたら、53年式って、65年も前のクルマですよ。それでよくヨーロッパに行こうなんて思われましたよね?

鈴木:ポルシェは古いモデルの部品も揃うし、この356でも北海道に3回、九州にも2回くらい自走で行ってるけど、ぜんぜん平気ですよ。地球儀でみれば日本なんて小指の先みたいなもんだし、その中をぐるぐるしているだけじゃつまらないじゃない。みんな遠いって言うけど、シュトゥットガルトなんて大陸をちょこっと渡ればすぐじゃんってずっと思ってた。日本を出発するときに境港まで見送りにきてくれたクラブのみんなにも、大丈夫なのって心配されたけど、「自信はないけど、古いパラシュートを背負って飛ぶ勇気はあります。空の状況もわからないし、いまは着陸する場所もよく見えないけど、でもこれまでにも何度も飛んでいるんだから大丈夫なんじゃない」、そんなふうに答えたんだよね(笑)。


GPSナビやタブレットはいまは必須アイテム。サンバイザー裏のキリル文字の対照表
GPSナビやタブレットはいまは必須アイテム。サンバイザー裏のキリル文字の対照表

 大した準備はしていないと鈴木さんは謙遜するが、実はこの旅のためにオーバーホールに匹敵するような相当に入念な整備を実施していた。クルマをよく見ると、ルーフキャリアのみならず、助手席なども外して予備のパーツなどがしっかり用意されていることがわかる。

 言葉に関しては英語はある程度できるものの、ロシア語は、ロシア語アルファベットのキリル文字とローマ字との対照表を運転席のサンバイザーに貼り付け、日常会話は、あらかじめ用意したスケッチブックでどうにか乗り切ったという。

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