また、ヴァラーナシ郊外には、仏教の八大聖地のひとつサルナートがある。サルナートは、ブッダガヤで悟りを開いてブッダとなった釈迦が最初に説法を行った(初転法輪)地である。
モディ首相が安倍首相をヴァラーナシに招いたのは、単に自分の選挙区であるためではない。同地は、ヒンドゥー教と仏教の聖地が併存している、いわば日印の精神的絆を象徴するからであった。

宗教対立の懸念
インドでは、ヒンドゥー教と仏教のほか、シーク教やジャイナ教も生まれている。また、外来の宗教も、キリスト教、ユダヤ教、イスラム教、ゾロアスター教(拝火教)を受け入れている。特に、イスラム教は15%近くを占めている。
インドにおいては、このように多くの宗教が共存しているため、宗教対立が国体を揺るがすことのないよう、政教分離(世俗主義ともいう)が国是となっている。多数派のヒンドゥー教も国教ではない。
この原則はおおむね順守されてきたが、ここ20年来、インド人民党(BJP)が政権を取るに至った1998年以来、ヒンドゥー至上主義の風潮が勢いを増してきた。その勢いは、モディ首相率いるインド人民党政権下で加速している感がある。これへの反動と世界的なイスラム原理主義の台頭により、ヒンドゥー教とイスラム教の対立が懸念されるようになっている。
(次回に続く)
筆者/平林 博(ひらばやし・ひろし)氏

日印協会理事長・代表理事。1963年東京大学法学部卒業、外務省入省。在外公館では、イタリア、フランス、中国、ベルギー、及び米国に勤務。本省では、官房総務課長、経済協力局長等を歴任。在米大使館参事官時代に、ハーバード大学国際問題研究所フェロー兼同研究所日米関係プログラム研究員。1990年駐米公使、1995年内閣官房兼総理府外政審議室長(現在の内閣官房副長官補)、1998年駐インド特命全権大使、2002年駐フランス特命全権大使、在任中にリヨン第二大学より名誉博士号を授与、2006年在外公館査察担当大使。2007年外務省退官。同年から現職。退官後、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科客員教授、国土交通審議会委員、日本国際フォーラム副理事長、日本戦略研究フォーラム会長、数社の社外取締役などを歴任。
近著は『最後の超大国インド 元大使が見た親日国のすべて』(日経BP社)。
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