アショカ大王と仏教

 なお、安倍首相が演説の中で名前を挙げたもう一人、アショカ王は、仏教を広めた紀元前3世紀の王である。マウリア王朝の第3代の王から出発し、古代インドを統一した傑出した王であるため大王と称される。

 仏教は、紀元前5世紀に、北インドのシャキア王国の王子ゴータマ・シッダルタが悟りを開き、起こした宗教である。当時支配していたバラモン教の形骸化や弊害を除去した改革宗教であった。もっとも、因果応報、輪廻転生などの考え方は生かした。

 アショカ大王は、征服戦争によってインドを広範に支配下に置いたが、東部インドのカリンガ王国との戦いで数十万人という死者が出たことを深く悔悟し、仏教に帰依した。以後、アショカ大王は、仏教の布教と仏法(ダルマ)に基づく政治を旨としたため、仏教はインド全土に広まった。

 現在でも、アショカ大王が征服した各地に建立した柱(Ashoka Pillar)が残っている。サルナートにある柱の柱頭は、四方に顔を向けた4頭のライオンであるが、これがインドの国章となっている。4頭のライオンは、力と勇気、そして自信を表し、満開の蓮華(仏教の象徴)の上に載せられている。その下には、「真実のみが勝つ」を意味する言葉が記されている。政府機関の主要な建物の正面に必ず飾られ、公文書にも表示されている。

波乱万丈の宗教史

 現在のインドでは、宗教別の信者の割合は表の通りである。仏教徒は1%にも満たない。

(表:『最後の超大国インド』から転載)
(表:『最後の超大国インド』から転載)

 インドの宗教史は波乱万丈だ。

 バラモン教は、前述したように改革宗教として興った仏教によって次第にとってかわられたが、民間信仰に交じりながら生き延びた。それがヒンドゥー教である。

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