非同盟主義のDNAがまだ残っているのか、インドは、建前として、いかなる国とも同盟を求めない。冷戦期以来、ロシアとの関係は特に良く、インドの三軍の兵器はロシア製が多いが、インドにとって、それは同盟ではない。ここ数年来、米国との関係は大きく進展し、インド洋での共同軍事訓練も恒常化しているが、米国との同盟も求めない。

 同盟は求めないが、日米を含めた主要国との戦略的な関係の強化は、現在のインドの国策である。中国の軍事力が強化され、その覇権的行動が東シナ海や南シナ海からインド洋にまで脅威が及んでくると、インドとしても自国だけでの対応は難しくなる。そこで同盟には至らないが、米国など欧米諸国との関係を強化するのである。米国の同盟国でもある日本との関係重視も、この戦略の中に入ってくる。

 インド洋は、ハワイに司令部を置く米国の第7艦隊の管轄海域だ。第7艦隊は西太平洋からインド洋を全部カバーする。第7艦隊の基地は、インド洋のディエゴ・ガルシア島にもある。この島は英国領であるが、米国が借りている。

 ここ数年来、中国のインド洋への進出を視野に入れて、インドと米国は海軍の共同訓練(マラバール作戦)を行ってきた。かねてわが国も、海上自衛隊とインド海軍、海上保安庁の巡視船とインドの沿岸警備隊が二国間で共同演習を行ってきた。最近になり、米印両国は日本の海上自衛隊をインド洋において実行してきたマラバール作戦に招待し、三か国による共同演習を恒常化することになった。

領有権問題のにらみ合いが続く

 中国は陸路経由でインド洋に出るルートも開拓している。一つは、雲南省からミャンマーのイラワジ川を南下し、ベンガル湾に出るルートだ。もう一つは、カラコルム山脈を越えて友邦パキスタンに出る道路の整備だ。この二つの出口、特に後者が整備されれば、中国はペルシャ湾やスエズ運河への最短の道を確保できる。仮にマラッカ海峡を米軍などが押さえても、インド洋への進出は可能となる。

 パキスタンを経てインド洋に出る一帯一路のルートは、領有権を巡ってインド、パキスタン、中国が対峙しているカシミール地方を含んでいる。インドはこれに反発し、今年5月に中国が開催した一帯一路フォーラムでは、中国から招待を受けていたインド代表団が参加を拒否した。

次回に続く)

筆者/平林 博(ひらばやし・ひろし)氏

 日印協会理事長・代表理事。1963年東京大学法学部卒業、外務省入省。在外公館では、イタリア、フランス、中国、ベルギー、及び米国に勤務。本省では、官房総務課長、経済協力局長等を歴任。在米大使館参事官時代に、ハーバード大学国際問題研究所フェロー兼同研究所日米関係プログラム研究員。1990年駐米公使、1995年内閣官房兼総理府外政審議室長(現在の内閣官房副長官補)、1998年駐インド特命全権大使、2002年駐フランス特命全権大使、在任中にリヨン第二大学より名誉博士号を授与、2006年在外公館査察担当大使。2007年外務省退官。同年から現職。退官後、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科客員教授、国土交通審議会委員、日本国際フォーラム副理事長、日本戦略研究フォーラム会長、数社の社外取締役などを歴任。
 近著は『最後の超大国インド 元大使が見た親日国のすべて』(日経BP社)。