喝采を浴びたインド国会での演説

 安倍首相は10年前の2007年の訪印時、インドの国会で演説した。どの国でもそうだが、外国賓客に国会で演説させることは、その外国首脳に破格の待遇を与えることを意味する。インド国会では中曽根康弘首相、海部俊樹首相も演説している。

 「二つの海の交わり」と題した安倍首相の演説は、インドの国会議員から大喝采を浴びた。その中で安倍首相は、次のように述べている。

 「太平洋とインド洋は、今や自由の海、繁栄の海として、一つのダイナミックな結合をもたらしています。従来の地理的境界を突き破る『拡大アジア』が、明瞭な形を現しつつあります。これを広々と開き、どこまでも透明な海として豊かに育てていく力と、そして責任が、私たち両国にはあるのです」

 「共に海洋国家であるインドと日本は、シーレーンの安全に死活的利益を託す国です。ここでシーレーンとは、世界経済にとって最も重要な、海上輸送路のことであるのは言うまでもありません。

 志を同じくする諸国と力を合わせつつ、これの保全という、私たちに課せられた重責を、これからは共に担っていこうではありませんか」

 日本を含む多くのアジア諸国にとって、マラッカ海峡からインド洋を経てペルシャ湾やスエズ運河に至るシーレーンは、経済の生命線である。特に、中東の原油や天然ガスは、戦略的に重要である。

 地図を見れば、インドの地政学的な重要性は明白だろう。インドは、ユーラシア大陸の真ん中の南部を押さえて、インド洋に突き出している。

 このシーレーンでの重大な懸念材料が中国の海洋進出強化である。中国が平和的な行き方を取らず、インド洋でのプレゼンスを強化していけば、枕を高くしていることは難しくなる。

「一帯一路」への懸念

 インド洋は、中国が進める「一帯一路」構想のルートになる。一帯一路は、陸路と海路の双方から欧州に至るまでの道筋をつけ、欧州へのアクセスを確保するとともに、沿線国に影響力を及ぼす戦略である。陸路は、旧シルクロード沿いに中央アジアを経て欧州へ、海路は、南シナ海からインド洋、スエズ運河を経て欧州へ至る道筋である。

 中国は、潤沢な資金と自国から連れていく労働者によって、ミャンマーのシットウェ港、バングラデシュのチッタゴン港、スリランカのハンバントータ港、そしてパキスタンのグワダル港の建設を援助した。表向きは、これら諸国の貿易のための商業港であるとするが、いずれは中国の遠洋艦隊の補給などのための寄港地となると言われている。すでに、ハンバントータ港には中国の潜水艦が寄港し、インドの神経を逆なでしたことがある。中国は、ハンバントータ港での権益の拡大を要求しているが、港湾建設のために膨大な資金を中国から借りたスリランカは、これを断り切れない状況に置かれている。

 なお、これらの四つの港を結ぶと、首の形をしたインドを囲む形になる。誰が名付けたか、優雅に「真珠の首飾り」と称する。インドの首を絞めるような戦略である。