非正規社員は生活のために実質的に副業・兼業せざるを得なくなり、長時間労働リスクを抱えることになる。企業は非正規社員に「時間給を支払ってまで研修を受けさせる」という対応はとらない場合が多く、非正規社員は能力開発の機会に恵まれていない。そもそも労働生産性は、従業員1人ひとりが1年間または1時間に付加した価値のことなので、生産性を高めるには従業員の質を向上させる必要がある。非正規社員が増えて副業・兼業が増えているという場合、個々の企業の短期的な労働生産性はインプット(投入)の効率化によって高まる。しかしながら、アウトプット(産出)の増加にはならない。日本の企業全体というマクロの視点で、中長期的に見た場合には、労働生産性の向上にはつながっていないのではないだろうか。

非正規社員の能力開発、副業・兼業拡大の基礎に

 初めて仕事に就いた人が派遣社員やフリーターという立場の場合には、単純反復作業を担当することが多くなる。そこではテクニカルスキル(ある特定の作業に対する技術)は習得できるが、正社員として習得できるヒューマンスキル(コミュニケーションや傾聴、部下育成スキルなど)は教えてもらえないことが多い。企業側も派遣社員・フリーターにそこまで求めていないことが多い。さらに上級の管理者として求められるコンセプチュアルスキル(課題設定・問題解決能力等)を学ぶ機会も与えられていない。非正規社員の人がそういうスキルを身に付けようと思ったら、自分自身で投資をして勉強・講習を受けなければならない。そのようなスキルが自身のキャリアプランを考えるうえで求められているということすら、知る機会を得ていない人が多い。自分で率先して、自己投資をする人は少ないと考えられる。日々の生活を送るために複数の仕事を掛け持ちすることに精一杯となり、自身のキャリアプランを考えることに思いが至らないのではないだろうか。

 非正規社員の能力開発を「自己責任」としてしまうのではなく、誰もが自身のキャリアプランを考える機会と能力開発の機会を与える仕組みを構築して提供することが、副業・兼業を当たり前の働き方にする基礎になるのではないだろうか。考えられる解決策としては、理論上になってしまうが、繁忙期と閑散期が異なる2社(数社)が提携してお互いの従業員を繁忙期に派遣しあうことができないだろうか。通常、繁忙期と閑散期が異なるのは、業種が違うためであり、競業にならないことが多く、両社で総労働時間の把握や社会保険料負担割合を契約で決めるという実務的なメリットも考えられる。さらには、両社で協力し、能力開発を実施することも効果的だろう。

企業の本音やはり「自社のみに専念を」

 もう1つ、企業にとっての副業・兼業に対する考え方を改めて深掘りしたい。長年同じ企業内で働いていると、考え方がマンネリ化してしまい、新しい事業や付加価値創出に行き詰まってしまうことはよくあることだろう。そこで違った環境で新しい業種・職種を経験することにより、新規事業のアイディアや新商品・ビジネスモデルのアイディアが生まれる可能性は大いにある。異業種交流や他社に武者修行として一定期間研修に行くプログラムも人気がある。企業が恐れることは、副業・兼業で新しいビジネスモデルを考えるとその人が起業してしまい、結局は自社に何のメリットも無いばかりか、優秀な人材が流出してしまうリスクである。正社員として就職し、企業内研修でヒューマンスキル、コンセプチュアルスキルをマスターした人は自身の更なるキャリアアップとさまざまな経験を求めて副業を求めるが、企業側からすれば、事業運営の要となっている人には自社の経営にのみ専念して欲しい、副業をする時間があれば、部下育成をもっとして欲しいというのが本音だ。

 日本の国というマクロな視点で考えれば、新しいビジネスモデルで起業する人が増えることはアウトプット(産出)が増える可能性がある、という意味で労働生産性向上につながると考えられる。しかし、個々の企業からすると、優秀な人材が流出することは、付加価値の源泉が失われることとなり、労働生産性を悪化させるリスクを伴うことになる。

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